■ 1-5 ■


「おお、確かにこの子じゃ」
 七十前半、仕立てのいいスーツを着た白髭白髪の老人は、目隠しをされ、椅子に縛り付けられた亮の顔を見下ろすと、満足そうにうなずいた。
「君の所の社長に食事へ招待された折、確か若い重役の元へ届け物をしに来ていた。一目見て気に入ってのぅ」
「これはうちの社でアルバイトの雑務をしている者で、今回、屋敷先生の為だけに躾けさせていただきました」
 傍らに立つ滝沢はうやうやしく頭を下げると、営業用の笑顔を振りまく。
「さあ、先生に自己紹介なさい」
 滝沢が亮の肩に触れると、亮はそれが合図だったかのように顔を上げ、言われたとおり言葉を発する。
「――明神……とおるです。十五歳、です」
 成坂の姓を名乗ってはいけないと言われていた。明神はいなくなった母親の姓だ。
 父からの指示だと聞かされ、亮は反発する気力もなくうなずいていた。
 もう、自分は家族ではないと、宣告されたのだと、亮にはわかった。
「おうおう、亮くんか。かわいらしいのぅ。そうか、ワシの為に躾けてもらったか」
 屋敷は破顔すると膝を折り、亮の頬へ手を添えた。
 突然触れられたことに、びくりと亮の身がすくむ。
「ほっほっほ。怯えておるのかの? 目を塞がれておればそれも道理じゃて」
 言いつつも、屋敷は亮の目隠しを外す気配はない。そのまま添えた手で亮の柔らかな髪を梳き上げながら、べろりと反対側の頬を舐め上げる。
「…っ――」
 亮は動けぬ身体でそれから逃れようと、反射的に身体をこわばらせた。
 自由にならない身体。
 見知らぬかさついた手の感触。
 樟脳の混ざったような不快な臭い。
 見えないことが、亮の恐怖心を必要以上に煽っていく。
 今から何をされるのか、亮には想像もつかない。
 滝沢に言われたとおりのことをすればいいのだと、ぼんやりとはわかっているが、それでも今までとは環境が違いすぎる。
 その上いつもの倍の濃度の薬剤を投与された亮の心臓は、痛いほどに脈打ち、身体中の神経がささくれ立ち始めていた。
 肌に触れるシャツの感触すら、亮を高めていく。
「ふぅむ。まだ躾けが完全ではないと見えるな、滝沢くん」
 そばにある不快な息づかいから逃れようと身体をひねる亮に、屋敷はわずかに眉をひそめた。
「も、申し訳ございません。何しろ、この子はまだ女も知らぬ子供でして――」
「いや、いいんじゃ。いやいや、それがいいんじゃ。ワシが手ずから躾け直してくれる。それから、この制服がいい。これは、亮の学校の制服じゃな? ワシが見かけた折りもこの格好じゃった」
「はい、その通りでございます」
「――おまえはなかなか良い仕事をする男じゃな。覚えておこう」
「ありがとうございます」
 滝沢は笑顔で深々とお辞儀をした。
「それでは、私はこれで。ごゆっくりお楽しみ下さい」
 滝沢が部屋を後にすると、屋敷はおつきの黒服二人にも目配せをする。
 良く心得ているのか、がっちりとした体つきの二人の男は、一礼すると部屋の外へと出て行った。
 部屋に大勢いた人間の気配がなくなる。
 亮は隠されたまなこで、不安げに当たりを見回した。
 それをすぐ真横から屋敷が満足そうに眺める。
「そう怯えることはないよ、亮。ワシは優しい男じゃ。おまえが聞き分けの良い生徒であれば、痛いことはしやせん」
 耳にかかる亮の髪を舌先でよけながら、老人は優しい声音で囁いた。
 ぞくりと全身が総毛立ち、亮は浅い呼吸のままただ震えるしかない。
「まずはその足じゃ」
 屋敷の手が亮の足に伸び、器用に拘束用の紐をほどいていく。
「かわいそうにの、滝沢は酷い男じゃ。こんな椅子に亮を縛り付けおってからに。痛とぅはなかったか?」
「…は、はい――先生」
 言われたとおりに言葉を紡いでみた。
 その亮の受け答えに、老人は黄ばんだ歯を見せて笑う。
「ここを結んでしまっては、亮の足が自由にできんではないか。なぁ?」
 その声が亮の耳に届くと同時に、ベルトを外される音がした。
 ズボンの前がくつろげられると、すぐに汗ばんだ手が潜り込んでくる。
 無意識に腰を引く亮の腿を、屋敷は凄まじい力でぐぃとわしづかみにした。
 指が食い込むその痛みに亮は悲鳴を上げ、老人はそれを聞きながら亮のズボンと下着を脱がしにかかる。
「聞き分けのない子はお仕置きじゃぞ」
 現れた亮の白い腿にはくっきりと赤黒い痣が五つ、指の形に残っていた。
「おお、おお、綺麗な足をしておるな」
 下半身を覆っていたものを完全に取り去り、しなやかにすらりとした少年らしい足が現れると、屋敷は目を細め、ひざまづいて撫で回す。
 ほおずりしながら腿を下り、左足膝小僧をひとしきり舐めると、さらに下へ。
 老人は息も荒く白いスクールソックスを脱がせにかかった。
「ふむ。亮、これはどうした。痛そうな跡をつけて」
 亮の足首にはくっきりと残る痛々しい傷。
 それは滝沢のつけた足枷の跡であり、それを取ろうともがいた亮自身の爪でえぐられた傷である。
 未だ薄皮がはっただけの生々しい傷は、触れるだけで亮に痛みを走らせる。
 それを屋敷は心底あんじたように指先でなぞり、舌を這わせた。
「っ…あ…これ、は…滝沢が――」
 痛みに顔をしかめる亮を上目遣いで見上げると、屋敷はいっそう強く爪傷を吸い上げ、歯を立てた。
「っい、あああっ!」
「かわいそうにのう。ほんに、滝沢は酷い男じゃ」
 屋敷のぬめりを帯びた舌が足首から指先にゆっくりと移動し、そして指の間へと入り込む。
「――ひ…」
 その不気味な感触に亮は足を引こうとし、足首を握る屋敷の手に止められる。
「いぁっ! やあっ、あっ、あっ、痛いぃっ!」
 老人の指は慮外の力でぎりぎりと亮の足首へ食い込んでいた。幾筋も鮮血が流れ出す。
 しかし屋敷はそれには何も応えず、ただ亮の足の指を丹念にねぶっていく。
 かかとや足先からぽたぽたと真っ赤な滴が垂れ、畳の上を亮の血が汚していった。
「おお、これはすまなんだ。ついつい力が入っての。――しかし亮。つらそうな割には可愛らしいおまえの持ち物が、首をもたげておるようじゃが」
 指摘された通り、苦しげな息を繰り返す亮とは裏腹に、自身のものは小さく首をもたげ、己の存在を主張し始めている。
「これは随分と躾のしがいがあるわぃ。足を苛われるのもイイ、痛いのもイイでは、お仕置きの仕方にも困ってしまうのぅ」
「――ちが…」
 決してこの行為が気持ちいいわけではない。しかし、今の亮にはあらゆる刺激が性的に高められる材料となり、全てが彼をさいなんでいる。
 GMD投与から三十分。そろそろ亮にとって危険な時間帯へと突入を開始していた。
 屋敷もそれは十分に心得ている。GMDを使ったという話は滝沢から聞いていたからだ。
 それを知った上で、この可愛らしい少年を嬲っていく。
 屋敷は亮の足を開かせ、己の身体を割り込ませると、足の付け根を覆うシャツをまくり上げて亮の未成熟なものにむしゃぶりつく。
 視界を奪われ状況のわからない亮は、突然の刺激にびくりと身体を硬直させ、がくがくと震えた。
「ぃっ、あっ、は…、せ…んせ…」
 屋敷の舌は生き物のように亮にからみつき、両足を持ち上げると、薄く色づいた後腔にまで潜り込んでいく。
「出してはならんぞ、亮。ワシが許可するまで、いってはならん」
「やぁっ、だめ…、も、せんせ、あ、あ、きちゃぅ、あ、あ、」
 亮は自由にならない上半身を揺すり、必死に奥歯をかみしめた。
 いいつけは守らなくてはならない。
 この人の機嫌を損ねることは、しゅう兄の仕事を邪魔することだ。
 だから、しっかりしなくてはいけない。
 言われたとおり、ちゃんとやらなくてはいけない。
 しかし、今の亮の身体は決して亮の自由になるものではなかった。
 老人の骨張った指が亮の中に潜り込み、立ち上がった亮の先端を老人の舌がちろちろといらう頃には、その微妙な舌先の動きに亮はどうしようもなく追い詰められていた。
「せん…せ、ゆるし…っ、あっ…でちゃ、やっ、やっ、だめ、だめ…だめえええっ!」
 屋敷の口に根本まで咥え込まれ、二本の指にひときわ突き上げられた瞬間、亮は絶望的な声を上げ、腰を揺らして達していた。
 屋敷は目を細めると、さも美味そうに亮の放出したミルクを飲み下していく。
 目隠しに使われた布は涙を吸い込みきれず、遂に亮の頬を涙が伝い落ちていた。
 がくりと身体を椅子に預けた亮に、屋敷の冷たい声がかかる。
「ほんに、駄目な子じゃな、亮は。出すことしか考えておらん破廉恥な子じゃ。いくなという、こんな簡単な言いつけも守れんとは」
「ごめ…なさ…」
 喘ぐように言った亮の声はか細く、消え入りそうだ。
 しかし達したばかりの亮のものは、屋敷のこねるような指先に、すぐに力を取り戻していく。
 屋敷はくりくりと先端を二本の指でこねながら、固くした舌先を亮の後腔にねじ込ませる。
 ぴちゃぴちゃという淫猥な水音を立て、出し入れされる舌先に、亮は泣きながら足をばたつかせた。
「や、も…、だめ、です……、オレ、っ…あ…、…るして…」
「出したばかりじゃというに、もうこんなにして、心底おまえは悪い子じゃわい。――じゃが安心しなさい。これ以上粗相をせんよう、ワシがいいものを亮にプレゼントしてやろうな」
 足の間からそう声が聞こえたと同時に、強烈な痛みが亮の下腹部を襲う。そしてそれは次第に強まり、重く亮の腹を圧迫するようであった。
「…っ?…いっ…な、に…?――や、あっ」
 チリンと涼しげな音が鳴る。
「おお、おお、よう似合うておる。可愛らしくできたわ」
 立ち上がりかけた亮のものは、根本を深紅の組紐で、何重にもきつく結び込まれていた。
 その美しい紐の先に、金色に輝く小さな鈴が一つつけられている。
 亮が苦しげに身じろぎする度、鈴は今の亮とは対極に位置するような清涼な声音を、亮の耳に届けていた。
 しかし亮は自分がどうされているのか知ることが出来ない。
 ただ感じたことのない下腹部の鈍痛と、息苦しさに喘ぐのみである。
「――そうじゃ、ワシ一人ではもったいない。他の者にも見てもらおうな、亮」
 そう言うと、屋敷は亮の後ろに回り、障子の向こうに声をかけた。
「おまえたち、仕事はいいから入ってきなさい。どうせここには誰も来やせん。おまえたちも楽しみたかろう?」
 声をかけられてすぐに、表へと通じる障子が音もなく横へ滑った。
 廊下で部屋の警護をしていた二人の黒服が、屋敷のお召しにより表情もなく現れる。
「これを見てやってくれ、おまえたち。どうじゃ、可愛らしかろうが」
 亮の背後から屋敷は手を伸ばし、大きく足をM字に抱え上げてやった。
 目隠しをされ、両腕を縛り付けられた少年の中心で、痛々しく縛り上げられたものが、涙を流しながらふるふると震えている。苦しげに身じろぎする度、チリンと鈴が愛らしく揺れる。
「――っ」
 二人の黒服は我知らずごくりと喉を鳴らし、その姿に視線を釘付けにさせられていた。
 きちんと高校の制服を着付けられた上半身と、全て取り払われ淫らに濡れそぼった下半身。その対比があまりにも倒錯的だ。
 右足だけ残された靴下すらも、少年を飾り付ける小道具の一つに思えた。
「――御前様、お写真を、撮られますか?」
 三十後半、年かさの方の男がたっぷり時間をおいてそう言った。
「おお、そうじゃ。田中、いいことをいうの」
 三十前半のもう一人が鞄から用意していたポラロイドを取り出すと、フラッシュを焚き、何枚もシャッターを切った。
「藤本、ワシにも撮らせぃ」
 亮の足を椅子の肘掛けにかけ固定すると、いそいそと屋敷も前へ回りカメラを手にする。
 亮はその間にもGMDの効力で追い詰められていく。
 既にじっと座っていることさえできない。
 荒い息と共に身体をもじもじとよじらせ、必死に歯を食いしばる。
 閉じられた瞳に何度もフラッシュの白い光が瞬き、その度に飛びそうな意識を押さえ込むのに精一杯だ。
「随分と苦しそうじゃの、亮。どれ、手を外してやろう」
 屋敷の合図で田中が亮の腕の拘束を外してやる。
 それと同時に亮はその手を己自身へと、反射的に伸ばしていた。
 しかし、そこは固く結びつけられており、亮の手は鈴の音を奏でる効力しか持たない。
「っ? や、あっ、なに…、なんで…、や、やだ、やだ、これ、やだ、いやあああっ!」
 半ばパニックを起こしかける亮を藤本が押さえつけると、両腕を後ろ手に再び縛り上げる。
「いけない子じゃなぁ、亮。まさか自分でしようとしたのか? ほんにいけない子じゃ」
 亮の身体は無遠慮に布団の上に投げ出され、視界の閉ざされた亮は受け身を取ることもできず、胸を強く打ち付ける。
「ぐぅっ、げほっ…かはっ――」
 咳き込む亮を田中が抱き起こし、屋敷がその顔をのぞき込んだ。
「わかるか? 亮。これがワシのお仕置きじゃ。おまえのような淫乱な子供にはこれが一番じゃと、ワシはよう知っておるからのぅ」
 田中に支えさせたまま、屋敷の手が亮のジャケットをはぎ取り、ネクタイを緩める。
 一つずつシャツのボタンを外しながら、屋敷は亮の唇に舌を這わせ、そのまま唇を合わせていく。
 亮は顔をよじって避けようとするが、田中の大きな手に後ろから固定されてしまう。
 老人は口の中で逃げ回る亮の小さな舌を己の舌で絡め取ると、丹念に吸い上げてやった。
「ん――っ、んふ…っ」
 身体を震わせて反応する亮の胸元に、老人の乾いた指が滑り込む。
 その指はすぐに亮の胸の飾りをとらえると、乱暴にぐいっとつまみ上げた。
「っ、ひ、やああっ、」
「なんじゃ、亮。まだ触れてもおらんかったのに、既にチチ首がつんと上を向いておるではないか。これはどういうことじゃ? んん?」
 屋敷は欲望に塗れた目ではだけられた亮の胸元を見ると、もう片方の飾りの先端を、クンッと舌ではじいてやる。
「ふぁっ、あっ、これ…は、…せ、せんせ…に、っ、は…、ぃじめ…て…っ、ほし…から…で…す…」
 滝沢に教え込まれたことが口をついてこぼれ出る。
「――ほお、亮はワシに虐めてほしくて、ここをこんなに尖らせたのじゃな?」
 この条件反射的な言葉に、しかし屋敷は大いに興奮したようであった。
 にんまりと口を開き、屋敷は唇を突き出して亮の胸元へ顔を落としていく。
 亮の微かに焼けた肌の上に、ぽたぽたと屋敷の涎が滴った。
「ワシが何もしとらんのに、上を向きおって。ほんに生意気なチチ首じゃわ」
 ちゅっと音を立て吸い付くと歯を立て、先端を舌先がちろちろと嬲る。
「やぅっ、あっ、せ…せ、も、ゆるし…、も…」
 伸ばされた手が亮自身の先端をくちゅくちゅとこねる。
 その度、亮の代わりにチリチリと鈴が泣いた。
「許すとはどういうことじゃな、亮。言うてみぃ」
 制服をはだけた亮の肌を、胸から腹にかけ舐め下りながら、屋敷が問いかける。
「あ、あ、…、も、いかせて、くだ…さい、も、とおる、を…ぃかせて、…ださい」
 快感が身体も頭も焼き尽くしているのに、熱く弾けそうな部分は封じられたままだ。
 亮は快楽の海の中に沈みながら、必死にもがき、海面を探して喘いでいた。
「よしよし、可愛い亮の頼みじゃ、ワシが二人に頼んでやろうわぃ」
 屋敷が目配せすると、藤本と田中が上着を脱ぎ始める。
 背後の田中の動きに不安げに身体を起こそうとする亮を、田中が膝上へ抱え上げる。
「おまえたち、ちとご苦労じゃが、亮を虐めてやってくれんかの。この子はそうされるのが好きだそうじゃからな」
「はい、御前」
 そう声が背後から聞こえたと思うと、亮の耳元に荒い息づかいが聞こえ始め、両方の胸の飾りを優しくつまみ上げられた。
 人差し指と中指でつままれたその先端を、親指の腹でくりくりと頃がされる。
「…ぅんっ、あっ、誰…や、はぁっ、んぁっ」
 甘い吐息が亮の口から零れ出て、腰が自然と揺れてしまう。
 もがこうとする足をまた別の誰かに捕らえられ、状況のわからない亮は恐怖で身体をひねった。
 しかし亮の力では、どうにもならない相手である。
 チリチリと音を鳴らして別の手が立ち上がった亮のものをまさぐり、つめたいものをつけた太い指が亮の中に突っ込まれる。
 暗闇の中、いくつもの手に身体をいらわれ、亮の恐怖と快感は絶頂に達しようとしていた。
 身体を裏返されると大きく腰を上げさせられる。後ろ手に縛られたままの亮は体制の苦しさに喘いだ。
 しかしその瞬間、太く熱いものが亮の中に潜り込んでくる。
 頬を布団にこすりつけたまま、ずり上がって逃れようとする亮の身体をもう一人が押さえつける。
「っ、ひ、いああああっ!」
 熱いものは亮をいっぱいに押し広げながら、奥へ奥へと穿たれ、亮は痛みに悲鳴を上げた。
「っ、御前、これは――今までになく…」
 そう男の声が聞こえた。
 亮は痛みから変換される快感に意識を半ばさらわれながら、必死に浅い呼吸を繰り返すだけである。
「なに、そうか、それほどの出物か。なれば、またワシの養子に迎えてやるのもいいかもしれんの」
 滑らかな弧を描いて反り返る亮の背を、老人は舐め渡りながら言った。
「ワシ自身が使うことはできんが、代わりを務めるおまえたちの様子を見るのも楽しみの一つじゃからな」
 穿った男の腰が動き始める。
 亮の腰を両手でつかむと、はじめはゆっくりと。次第にスピードを上げ、リズミカルに打ち付ける。
 グジュグジュと嫌らしい音が室内に響き、男の呼吸が上がっていく。
「っ、ぃっ、ぃぁっ、んっ、ふぁっ、ぁぅっ」
 暗闇の中、姿の見えぬ者に突き上げられる。
 亮は恐怖で身体をがくがくとふるわせながらも、擦り上げられる快楽に、次第に自ら腰をゆらし始めていた。
 もうただいきたくて、いきたくて、気が狂いそうだ。
「ほれ、亮。お口がお留守じゃわぃ」
 言われて身体を起こされ、縛られていた手をほどかれる。
 ほっとしたのもつかの間、亮の口は凄まじい力でこじ開けられていた。
 いやいやをする亮の口の中に、頬張りきれないほどの何かが強引にねじ込まれる。
「んん、っぐぅ…」
 あまりの苦しさに押し出そうとする小さな舌に、男は呻きを漏らしつつ、腰を動かし始めた。
 背後の男の動きが速くなる。
「っ、ふっ、くっ、ご、御前、一度、出してもよろしいでしょうか――」
 いつになく早いその宣言に、屋敷は己も興奮しながら何度もうなずいていた。
 田中のものを咥え込まされた亮の耳を舐め回し、両の乳首を弄りながら声を上げる。
「ふひっ、亮、出すぞ、おまえの中にたっぷりと出してやる。嬉しいか? そうか、嬉しいか!」
 藤本は呼吸を速め、細い亮の腰が砕けてしまいそうなほど強く深く亮の中に打ち付ける。
「ふっ、はっ、んんんっ、んんぁぁああっ!」
 叫びと共に、亮の中へ藤本は大量の精を注ぎ込んでいた。
 びくびくと男の腰が揺れ、亮の中の余韻を楽しんだ後、ゆっくりと引き抜かれる。
 血の混じった白い液体がとろりと糸を引き、屋敷はその様子をぎらぎらとした目で見つめていた。
「御前、――私も、そろそろ……」
 亮の頭を抱え込み、まるで道具でも扱うかのように前後に揺する。
 チリチリと短く鈴が鳴り続けていた。
 苦しげに嗚咽する亮の様子に、田中の息も上がっていく。
 必死に抵抗する舌に先端を擦られ、喉の奥で引き絞られる。
「亮、ワシの精じゃ。ちゃんと全部こぼさず飲むんじゃぞ、よいな?」
 亮の顔のすぐ上から、屋敷はその様子を凝視していた。
 まるで自分自身が亮の口を犯しているように、腰を動かす。
「んっ、んんんんんんんっ!」
 亮は塞がれた口で悲鳴を上げた。
 田中が一際大きく腰を突き出した瞬間、三度にわたって激しくそれは吹き上がっていた。
「っ、えっ、ぇあっ、かはっ、げほっ…」
 引き抜かれると同時に亮は激しく咳き込み、吐くほどにえづいてしまう。
 大量の白濁液が亮の口元からだらしなく零れ出て、胸元を汚していった。
 亮の目を覆っていた布きれも、衝撃でずり落ち、その絵面は背徳的な淫乱さに満ちている。
「駄目な子じゃ、いいつけを守れんとは、ほんに駄目な子じゃ」
 そう言いながら息も絶え絶えの亮の身体を押し倒すと、老人は狂ったように亮の身体をむさぼり始めた。
 目隠しを取り去り、顔中を舐め回す。
 亮の目はすでに焦点すら定まっておらず、とぎれとぎれの息で微かに喘ぐだけである。
「…せ…せ、も、だめ、なの…、きちゃ…う…、も、ォレ、止まらない…よ…」
「だめじゃ。まだまだいかせてやるわけにはいかん。ほんに亮は悪い子じゃな。ワシはの、おまえを養子にしてやるための躾を……」
「しゅ…に…、ごめ…ね……………」
 呟く屋敷の身体が突然上空に浮き上がる。
 続いてブジュリという、腐った梨のつぶれる音がした。
 亮の上に赤黒い液体と中身が、土砂降りのように降り注ぐ。
 藤本と田中は突然の出来事に脳が対処できず、惚けたようにその場に座り込むしかない。
 そして次の瞬間、そんな藤本の首が大きく上に跳ね上がっていた。
 しかし身体は畳の上に腰を落としたままである。
 大量の血が噴水のように天井へ向け吹き上がる。
「――な、んだ!?」
 田中は見た。
 紫色の巨大な鞭のようなものが、藤本の首を薙いだ瞬間を。
 それらは亮の周囲を取り囲むように床や天井から幾本も突如現れ、ゆらゆらと揺れていた。
 まるで深海底に生息するワムシのようなグロテスクなそれらは、先端に目のような器官を持ち、全体に無数の繊毛のようなものをはやしている。
 紫色の巨大な触手の林の中、さっきまで仲間だったものの血の音が、シャワーのように聞こえている。
 その光景は、まさに悪夢そのものだった。
「馬鹿な! 何だこれは! こんなもの、あり得ない! こんなもの、あるわけがない!」
 そう言いながら、懐に忍ばせてある銃を抜き、生物に向かって乱射する。
 しかしそれはまるで効力を持たず、田中の身体は他の二人と同じくあっという間に絡め取られ、二本の触手にぞうきんのごとく絞り上げられてしまう。
「ぎああああああっ!」
 耳を覆いたくなる悲鳴が上がり、滑稽なまでにねじられた田中の身体は、触手の一つに巻き込まれ、この世から完全に姿を消していった。
 屋敷の身体は既になく、藤本の身体も、じきに床の触手によって取り込まれていく。
「…っ…は……、っ、たす…け…」
 亮は虚ろな目で天井を仰ぎ、上から迫り来る見知らぬ物体へそう呟いていた。
 紫色の触手は亮の身体を巻き上げ、部屋の中央に持ち上げていく。
 下から伸びた別の触手に身体を支えられ、亮は中空で大きく足を広げられた。
 もう抵抗する力すらない亮に、幾本もの細い触手がからみつき、繊毛が亮の肌を擦り上げていく。
 チリンと鳴った亮の鈴に一本の触手が絡み、繊毛がじんわりと動きを開始していた。
「…ん…っ、あ…、とって…、」
 亮の言葉が終わるより先に、ぷちんと音を立て、絹で出来た組紐が溶かされていく。
 数秒を待たずに、鈴は可愛らしい音を立て、布団の上へと落下していた。
「っ! は、は…、あぁああっ!」
 封印が解かれると共に、亮は嬌声を上げ身体を震わせる。
 押し込められていた欲望が、何度も何度も吹き上げていた。
「あっ、あっ、はっ、あっ、でちゃ…ォレ、あっ」
 その亮の白い滴に次々と触手が群がってくる。
 それがなくなると、触手たちはねだるように亮自身を擦り上げ始める。
「やぁっ、だめ…も、だめだって…」
 身体をよじって逃れようとする亮の後腔に数本の触手が潜り込み始めた。
 もう入り込めないほどに次々と、別の触手が潜り込む。
「ぃぅっ、は…、は、だ、め…、あっ、あんっ、あ、そこ、やぁっ」
 触手が律動を開始すると、繊毛が亮の内部にへばりつき、強く中を刺激する。
 別の者は再び首をもたげ始めた亮のものをしごき上げ、また両の胸の飾りに吸い付かせる者もいる。
 この生き物は、どうすれば亮が快感に身を震わせ痴態を見せるのかをよく心得ているようであった。
 支える大きな触手たちも繊毛を使って亮の肌を堪能し、先端の大きな目でその様子を逐一観察しているそぶりがある。
 その目には明らかな知性と欲望の色が宿っていた。
「はっ、そんなの、やだ…、んっ、あっ」
 触手たちは大きく足を上げさせ、小さな子がおしっこをするような格好で、亮をさいなむ。
 太い触手の目が何本か、わざわざ前面に回り込み、亮が恥じらいながら腰を揺らす様を楽しんでいるようであった。
 尖った胸の先端を別々の触手に弄られ、たくさんの触手に前も背後も犯される。
 亮は遂に意識を快楽に解放させ、思うさま腰を動かし始めていた。
「んっ、んっ、あっ、あっ、はっ、きも…ち…いの…、あっ」
 亮の顔の前に中程度の触手が差し出され、亮は夢中になってそれに唇を寄せた。
 もっと、もっと、気持ちよくなりたかった。
 そのためなら何だってする。
 舌を絡みつけると、ゆっくりとそれを頬張っていく。
 習ったとおり。
 優しく、アイスキャンディーを舐めるように、舌を使って先端を擦る。
 すると口の中の触手はひくひくと反応し、亮の後腔はより激しく突かれ始めた。
「んっ、んんっ!」
 口中の触手はさらに深く、亮の中に潜り込んでくる。
「ぇぁっ、んぐっ、」
 えづく亮の中へ生暖かい粘液が噴出され、亮は咳き込んでいた。
 甘く不思議な味が口の中に広がる。
 ──おいしい。
 ぼんやりとそう感じ、亮はゆっくりと口の中のものを飲み下していく。
 しかし亮の口の端から零れ出るその白い液体は、ただでさえ飛びがちだった亮の思考を停止させ、うつろな表情をさらに強めていくようであった。
「っ、ふわ、はぁっ、ん、んぁっ、あっ、はっ、あっ」
 次第に亮の口からは喘ぎ声しか聞こえなくなってくる。
「ん、んぁっ、は、はあああああっ!」
 がくんと腰を突き上げ、亮が再び薄くなったミルクを吹き上げる。
 群がる触手達。
 壊れた人形のように揺すられる亮は、それから何度も何度も達していた。
 亮の瞳が閉じられ、意識を完全になくしてからも、その陵辱は続く。
 まるで亮にその行為をするためだけに、触手たちはこの場へ現れたかのようであった。
 亮の反応がなくなりしばらくたった頃、触手たちの一部がうっすらと消え始める。
 触手たちは亮を抱え、嬉しそうにざわめいていた。
 久しぶりに勝ち得た大きな戦利品だ。
 しかし、そのざわめきが、一瞬にして凍り付く。
「帰るならそれを置いていけ」
 甲高い音を立て、凍り付いた巨大な何本かの触手が、砂粒ほどのかけらに粉砕されていた。
 別の触手が新たに現れた侵入者へ向け、うなりを上げて攻撃を仕掛ける。
 それを軽々とかわすと、赤髪の長身は白刃を振り上げ、逆刃で縦に触手を切り裂いた。
 キン──
 血しぶきが上がる前に切り口から凍り付いていく。
 悲鳴を上げてのたうつ他の触手どもを横薙にすると、シドは落下してきた亮をその腕で受け止めていた。
 ぐったりとしたまま目も開けない亮の身体は、以前より随分と軽く感じる。
 シドは不機嫌そうに眉をひそめ、舌打ちをした。
 何もかも気に入らなかった。
 こんなガキにこんな真似を強いる人間達にも、こうなるまで放っておいた自分にも、だ。
 亮の身体を肩に担ぎ上げ、それを取り戻そうとうなり来る猛攻をかいくぐる。
 去り際に、シドは意識を白刃に込めると、一気に振り下ろしていた。
 ビリビリと振動が走った。
 それは触手たちの悲鳴。
 それと同時に凍気が周囲の空気を凍らせ、室内のあらゆる物質に亀裂が走る。
 シドが銀光を返す手でもう一振りすると、その軽い衝撃だけで触手の氷像は跡形もなく弾け飛んでいた。
 霧散していく紫の砂粒。
 後に残ったのは大量の血痕と、極寒の空気。
 シドは辺りを見回すと放り出されたカメラと写真を回収し、脱ぎ捨てられた黒服のジャケットを抱きかかえた亮にかけて、その場を後にしていた。
 





──なんだったんだ、あれは。
 滝沢は夢でも見ているかのように、ぼんやりとモニターの前に座り込んでいた。
 いくつかセットされた画面はどれも砂嵐で、既に何も映ってはいない。
「何が起こったというのだ」
 屋敷達の部屋を後にしてから、滝沢は近くの別の部屋からしかけたカメラを使って、全てをモニターしていた。
 録画も完璧で途中までは予想以上に楽しめた。
 だが、一時間経つか経たないかの頃、異変は突然現れたのだ。
 何度か画面が揺らめいた後、見たこともない光景がモニターいっぱいに展開されていく。
 どのカメラの映像も同じであった。
 見たこともない生き物。
 次々と殺されていく人間たち。
 そして亮の姿が紫の生き物の中に飲み込まれ、数十分の時が流れた。
 その間、滝沢は一歩もその場を動くことが出来なかった。
 もし、ここに映っている映像が真実なのだとしたら、自分もそこへ急行した途端、屋敷達と同じ運命を辿ることになる。
 何より足がすくんで動くことが出来なかったのだ。
 そして、更に数分後。
 今度は見知らぬ男が部屋に現れていた。
 いや、見知らぬと言うのは語弊があるか。
 滝沢はその男を見かけたことはあった。
 それは亮のマンションのすぐ前でである。
 赤髪長身のその白人は、入って来ると同時に手にした日本刀らしきものを振るっていた。
 その瞬間だ。
 映像が全て途絶えたのである。
 何が起こったのかはわからなかった。
 だが、やはり滝沢はそのままこの場を動くことはできなかった。
 滝沢が再びあの部屋を訪れたのは、様子を見に行った店の者が現場に驚いて、滝沢を呼びに来てからである。
 滝沢はその凄惨な部屋を見回すと、携帯で連絡を取り、部下のものを呼び寄せていた。
 後片付けと店の者の口止めに骨を折りそうだと、ため息を吐く。
 そして、あの赤い髪の男を見つけ出そうと心に決めていた。
 亮はおそらくその男の元にいるに違いないと、彼の玄人としての勘が囁いていた。