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「っ、ぁ、っあっ、……、ふるほん、や、さ……」 雨森の骨張った指先が、下着越しに亮の幼いものをこすり上げていた。 亮お気に入りの水色トランクスは、目立つほどにじっとりと色を変え始めている。 「ほら、気持ちいいねぇ、亮くん。ここもうくちゅくちゅいってるよ?」 亮の熱い体温を抱きしめたまま、雨森の親指が亮の先端を押し込むように強く回される。 「ひぁぁっ、は……ぁっ」 びくんと亮の腰が突き出される。 快楽と幸福感に何もかも浚われ、亮は震えながら、自分を包み込む雨森の羽織をぎゅっと握りしめるしかない。 雨森の左手は亮のTシャツをたくし上げ、ツンと尖りを見せる胸の先端を刺激し続けている。 すでに朱く色づいたそこは、汗で淫靡に濡れ光っていた。 「少し弄られただけでこんなに胸をツンツンさせちゃって。甥っ子がこんなじゃおじさん色々心配だよ」 溜息をつきつつ身体を捻り、亮の胸の飾りに歯を立てる。 そのまま舌先で弄ばれ、亮はひくんひくんと身体を揺らすと、溺れてでもいるかのように喘いだ。 「っつ……、ぁ……やぁ、も、やだ……」 だが快楽の中、亮の瞳には別の涙が溜まり始めている。 「おっとと、ごめんごめん、泣かないで。夢中になっててハッピーブリーズが切れちゃうとこだったね……」 雨森の手が伸び、ちゃぶ台の上に置かれたプリンを素手でえぐり取ると、亮の口の中へ指ごと突っ込んでいく。 「ぇぁっ……、ん……、ぁむっぅ……」 息苦しさに一瞬むせかけるが、亮はその甘美な味を喉の奥へと流し込んでいた。 雨森はそのまま亮の口中の感触を楽しむ。 「隅々までしゃぶって……、そう、上手。気持ちいいよ亮くん……」 亮の来訪を知り雨森が今回作り上げたお菓子の中には全て、雨森自身がセラで精製した『ハッピーブリーズ』いわゆる「幸せパウダー」とも言うべきものが大量に練り込まれている。 普段彼に渡しているものの中には入れていない禁断の物質を、今回はなんとなく気まぐれに大量投入してみたのだ。 それを亮は来るさま五個も六個も平らげてしまっている。雨森自身、「大丈夫かな……?」と心配になるほどだった。 何しろこのハッピーブリーズ、通常の人間ならば耳かきいっぱいでエターナルトリップ……永遠の幸せ旅行へ心が旅立ってしまう代物だからである。 そして――ハッピーブリーズでトリップ中の出来事は、何も記憶に残らない。 「幸せコーティングされてるから、心に傷さえ残さないんだ。ふふ……大丈夫だよ亮くん。僕の構成要素の半分は優しさでできてるからねぇ」 「っ、んぅ……、ふ……」 指を咥えさせたまま、雨森の右手が強く亮の屹立をしごき上げた。 「んんんんっ!!」 痛いほど立上がったそれが下着越しにトクトクと脈打ち、無様に下着を濡らしていく。 同時に大きく開けさせられた口から透明な唾液がぽたりと垂れ落ちた。 「気持ちよかったねぇ、亮くん。パンツぐちょぐちょになっちゃった」 ぼんやりと見上げる壊れたような亮に、雨森は優しく声を掛けた。 「僕が誰だか、わかるかい?」 「…………ふる、ほんや、さん……」 その答えに嬉しそうに雨森が微笑む。 「亮くんは、僕が好きかい?」 「…………すき」 「それじゃ僕が亮くんにこんなことしてるのも、許してくれるかな」 今度は下着の中に手を入れると、しんなりと頭を垂れた亮のものを優しく揉みほぐす。 「ん……、ゃ…………」 予想に反してその答えは拒否のようである。驚いたように雨森は目を丸くしていた。 「あらら……さすがはゲボちゃん。もう今のハッピーが打ち消され始めてんのか。こりゃブリーズだけじゃ終わるまで持たないなぁ」 呟くと、雨森の口元にひときわ意地悪な笑みが上った。 「じゃあこれは? きっと亮くんも気に入ってくれるはずなんだけど……」 縮こまり逃げようとする亮の身体を引き延ばすと、顔を上げさせ、強引に口づけする。 「む……ぅん……ぇぁっ……」 深く舌を侵入させると、息苦しさに喘ぐ亮の口の中へ唾液を流し込んでやる。 「ん……、……っ、んんぅ……」 苦しさにこくりと亮の喉が動いた。 大好きな古本屋さんに舌を入れられ、強引に唾液を飲まされているこの状況が、亮をますます混乱へ追いやっていく。 腕を突っ張り、足を伸ばして雨森の腕の中から抜け出そうと藻掻く。 「ゃ……、ふる、ほ、やさ……っ……」 しかし抵抗もここまで――。抗っていた亮の力が徐々に失せ、またも亮の内側を快楽と幸福が蹂躙し始める。 雨森から体液を通して直接与えられるヴンヨの力――それはハッピーブリーズの効果を否応なしに強め、否定的な感情全てを洗い流していくのだ。 「ほら、亮くんもエッチな気分になってきた」 「……っ……は……」 「僕の可愛い甥っ子くん。もう一度キスしていいかな?」 「ォレ……ふる、ほんや、さんと……きす……」 「そう……」 亮の返事を待つことなく、再び深く口づけていく。 「ん……っむ…………」 身体を捻り唇を貪られながら、亮はそれでも力なく雨森の胸を押し、わずかな抵抗を見せていた。 その意味をなさないであろう小さな抵抗はしかし、なぜか雨森を止めるのに十分な効果があったようだった。 雨森は困ったように眉を下げ、亮の唇を解放する。 「……やなの?」 朱く染まった唇を艶やかに濡らした亮は、ぼんやりしたまま雨森の顔を見上げうなずいた。 だがそれでも雨森は嬉しそうだ。 「どうして? 気持ちよかったでしょ」 亮は考え込むように首を傾げると、今度はイヤイヤと首を振る。 「気持ちよくなかったの?」 「きもち……よかた……、けど……」 「けど?」 「ォレ、は……、シドと、しか、しちゃだめ……て……いうから」 「……誰が言うの?」 「…………シド、が」 「・・・・・・。」 微笑を浮かべたまま雨森の表情が固まる。 「てことは……もしかして亮くん、もうシドとしてる?」 「して……?」 「亮くんのここに、シドの冷たぁいオトナキャンディー食べさせてもらってるかって聞いてるの」 雨森の指先がトランクスの内側に入り込み、すっかり濡れそぼった亮の秘所をそろそろとなで上げた。 ひくりと身体を硬直させながら、亮は大好きな古本屋さんの質問へ答えようと、幸せにかすむ頭を必死に巡らせる。 「……っん……、シドの……、おっきぃの、つめたく、て、オレなか……いっぱい……なる……」 「……あの男いつの間に解禁したんだ? ついこないだまで手はつけてなかったみたいなのに」 唇をとがらせ雨森が独りごちる。 しかしこれで雨森の楽しみは若干別の方向へシフトし始めたようだ。 「シドにここへ入れられるの、気持ちいい?」 雨森の骨張った指先が、熱く熱を持った亮の窄まりの内へ頭を潜らせていく。 「……ぁ……、ぁ……、だめ、るほん、ゃさ……」 その恐怖すら感じる甘ったるい感覚に、亮は震える足で腰を浮かせようとする。が、超級ソムニアである雨森の膂力は見た目とは比例せず、亮の身体をホールドしたまま一ミリたりとも動くことを許さない。 「んぁっ!」 ずくりと深く人差し指に突き抜かれ、亮は甘い悲鳴を上げて雨森の腕の中反り返る。 そのままコリコリと前立腺の辺りをこすり上げられ、亮は情けなくも口を開けたままひくひくと腰を揺すってしまう。 一度達したはずの幼根も、再びトランクスをめいっぱい押し上げ始めている。 「ね、シドに入れられて、気持ちいい?」 もう一度同じ質問を繰り返す。 「き……、もち、いぃの……、ォレ、シドに、入れられて、すぐ、きもち、く、なっちゃう……の……」 荒い呼吸の合間、朦朧とした亮がそう告白する。 「そっかぁ。そうだよね、僕もそうだったもん。あれはヤバイよねぇ?」 クスクスと喉の奥で笑うと、亮の耳を甘がみする。 「入れてるとき、シドはどんなこと亮くんに言うの?」 「っ、ぁ……、し、は……、きつかたら……、言えって……」 「…………おいおい、いつの間にそんな気の利いたセリフ覚えたんだ。僕には、声出すな、こっち向くな、動けグズ、の三つだったよ?」 憮然としながらズクリと深く指を突く。 「ひんっ!」 亮の起ち上がったものがドクンと脈打ち、再び下着を汚していく。 「でもまぁ……僕はそっちの方が楽しいんだけど」 うっとりと遠くを眺め、雨森は亮の精液を指に絡めると己の口へ運ぶ。紅い舌がそれを音を立てながら舐め上げていった。 「それで、亮くんはシドにどのくらいエッチなことされてるの?」 耳元で囁くと、射精の愉悦でぐったりした亮はぼんやり空を見つめたまま掠れた声で答える。 「いぱい……」 「気持いいこといっぱいされてるんだ」 コクリと小さく亮がうなずく。 「どこでしたの?」 「マンショ……、と……、ガッコ……と……」 「……わお。職場で!? あいつ潜入調査中に何やってんの。相変わらずムッツリエロ事師だなぁ」 呟きながら、イったばかりで収縮を繰り返す亮の内側をくりくりとこね回す。 「僕もキミのココで気持ちよくなりたいんだけど……、そんなにマーキングされちゃってるのは危険だなぁ。何せ突っ込んだら中の形変わっちゃうし、あのエロ事師確実に気付くよねぇ……。亮くんのココ、今はシドのにジャストフィットなんだろうしさ」 言いはなった後、「おお、いやらし」と身体を震わせて見せる。 「それじゃ代わりに亮くんのお口で気持ちよくしてくれるかな?」 ぐったりと身を預けた亮は返事を返さない。 「亮くんは僕のこと、嫌い?」 「……すき」 「亮くんは今、僕に二回も気持ちよくしてもらったでしょ?」 少し考えてコクリとうなずく。 「じゃあ今度は亮くんが僕を気持ちよくしてくれなきゃ、不公平だよ」 「……ふこーへ……」 「そうだよ?」 雨森が亮の身体を解放し、膝立ちになると和服の前をくつろげる。 現れたそれは既に黒々と起ち上がっている。おまけに雨森の体格にしては立派で、亮の小さな口には収まりきりそうもない。 「僕のここ、おいしそうにしゃぶって見せて?」 焦点を無くした瞳でそれを眺めていた亮は、四つんばいでおずおずとそれに近づき、そっと手を添え唇を近づけた。 見上げれば和服を羽織ったいつもの優しい古本屋さんの笑顔。 大好きな古本屋さんが気持ちよくなりたいと言っているのだ。亮は一生懸命おもてなししなくてはいけない。 そろりと舌を伸ばし先端をこねるように舐めると、ゆっくり口の中へ飲み込んでいく。 セブンスで散々味わった嫌らしい味と匂いが口中いっぱいに広がる。 古本屋さんもやっぱり同じ味だ。 「……ん……」 その大きさに、自然と眉根が寄せられ、苦しげな表情で上を見る。 「うん……、上手だよ? 続けて、亮くん」 舌を絡め歯をあてないように注意しながら、喉の奥まで飲み込み、嘔吐くのをこらえて締め付けていく。この一年、何人もの男達に教えられたとおりに――。 喉の奥がゴプリと鳴った。 「んむ…………っ、……ぇ……」 「ふ……、気持ち、いいよ。腰が動いちゃいそうだ……」 熱い息を吐きながら、雨森の手が愛しげに亮の頭を撫でていく。 褒められているとわかると亮は少しだけほっとして、眦に涙を溜めながらも、必死に雨森の大きなものを出し入れし始める。じゅぼじゅぼと聞くに堪えない下品な音がその愛らしい口元から上がる。 含みきれない部分は両手でこすり上げ、唾液に濡れそぼったそれに精一杯奉仕した。 亮の口の中で雨森の陰茎はますます膨らみ、熱く脈打っていく。 「ぁ、ぁ……、ぃぃよ……、亮くん……、とっても上手だ……、っ……、そのまま先端に歯を立ててごらん?」 亮は言われたとおり小さな白い歯で、ヒクヒクと蠢く先端に歯を立てていた。 「あは……、そう、そう……、舌も使って……」 亮の舌が雨森の先端へとねじ込まれていく。 ぶるりと身を震わせ、雨森は亮の髪をつかむとひくひくと細かく腰を動かした。 「あぁ……、僕の可愛い甥っ子くん……、僕の作るお弁当は、おいしいかい?」 亮は少し間を置いて「ぉぃひぃ……」と答える。 亮の口元から唾液の雫が糸を引き滴り落ちる。 「僕の作るプリンはどう?」 亮はまた少し間を置いて「ぉぃひぃ……」と答えた。 「それじゃ、僕のおちんちんとプリン、どっちがおいしい?」 亮は雨森のそれを咥えたまま、上目遣いに彼を眺め上げた。 ちゅるりと音を立て唇を離すと、チロチロと先端を舌でくすぐる。そして出た答えは 「ぷりん……」 その回答に吹き出しそうになりながら、雨森は唾液でてらてらと光る亮の頬を撫でてやった。 「ふふ……、終わったら、また新しいプリンごちそうしてあげる」 「ふるほ……やさん、ぷりん……」 亮は嬉しそうに頬を綻ばせると、ちゅるりと音を立て雨森の先端を吸い上げる。 「ぁ……、上手だよ、亮くん……、もっと強く吸って……、痛いくらい歯を立てて……」 雨森がリクエストする通り、亮は無心にそれをしゃぶり続けた。 大好きな古本屋さんのアレが、口の中でビクビクと痙攣し始めているのが分かる。亮はもうすぐ古本屋さんのミルクを飲むことになるのだ。 「ね。シドに……するのと、同じにしゃぶってよ……、亮くん……」 普段シドを喜ばせているのと同じ快感を得られると思うと、雨森の声は熱く震えた。 だが―― 「ん……っぅ……、しど、のは、おしゃぶり、したことなぃよ……?」 「・・・・・え。……っ、ぁっ……」 その瞬間、雨森の先端から大量の白濁液が飛び出し、亮の顔にたっぷりと掛かっていく。 「っ!?」 びっくりしたように目を見開く亮。 それを見下ろす雨森は情けない八の字眉毛になってしまっている。 「あちゃぁ〜……、失敗」 どうやら亮以上に驚いたらしい彼は、その衝撃で完全にタイミングを狂わされてしまったらしい。 生来のエピキュリアンを自負する雨森――いや、ローチにはあるまじき失態だ。 「なんだよそれ、亮くんのお口のガードトラップ? あいつホントに亮くんのお口使ってないの? なんで!? 散々下はやりまくってるってのに!?」 とにかく亮のお口を汚す算段は失敗に終わってしまったらしい。かといってもう一度トライする気も起きてこない。 雨森は仏頂面で、目標を違えて発砲を終えた己の分身を眺め下ろした。 「シドのヤツ、こんな萎え萎えトラップしかけやがって、僕がちょっかい出すのどっかで見てたんじゃないだろうね……」 「古本屋、さん?」 状況がまったくわからない亮は戸惑ったように見上げるしかない。 自分が何か失敗したのかと、泣きそうな瞳を揺らす。 「ああ、ごめんごめん。亮くんは上手だったよ。おじさん気持ちよくなっちゃった。ありがとね?」 亮の桜色の頬や唇に滴る自らの白濁液を舐め取りながら、雨森は亮の身体を抱き寄せる。 どうやらおもてなしは無事に済んだらしい。 「よかた……、ノーヴィス……、おわた、よ?」 まるで隣の部屋に誰か居るかのようにそう声を掛けると、亮のまぶたがそろそろと下がり始める。 そんな亮の髪を愛しげに撫でながら、 「それじゃ、プリン用意しようね。公衆便所ちゃん」 雨森は小さく微笑んだ。 (暑い……) 亮は寝返りを打つと、腹の辺りにかかっていたタオルケットをはだける。 どこからかぬるい風が定期的に送られてくるのは、扇風機によるものだろうか。 亮はそろそろと目を開ける。 (……? ……どこ……?) 目に入ったのは古びた木製の天井と、和風のペンダントライト。 身体を動かせば畳の感触がひんやりと心地良い。 風鈴の音が窓辺でやかましいほどに鳴っていた。 (…………そっか) ここが雨森の家だと思い至る。 今日は情報収集の為、久しぶりに雨森の家を訪れたはずだ。 確か古本屋からノートの丸秘情報を教えて貰っていたはずなのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。 「オレ、ほんとダメだな……」 諜報活動中にうたた寝してしまうのはこれで二度目である。自分のダメスパイぶりに我ながら情けなくなってくる。 「……だりぃ……」 身体が砂袋のように重い。おまけに随分寝汗をかいたらしく、体中がベタベタで気分は最悪である。 しかしそれにしても、この身体のだるさはどういうことだろうか――。 亮が身を起こすと、店側のガラス戸が開けられていた。 「おはよ。よく寝てたね。こんな暑い部屋で寝られるなんて若い証拠だよ」 苦笑混じりで店から顔を覗かせた雨森は、台所へと立ち上がる。どうやらやっぱり本屋に客は来ていないようだ。 「……オレ、いつの間に寝ちゃってたんだろ……」 言いながら亮は襟首を広げTシャツの中を覗いていた。自分では気づいていないが、無意識に己の身体を確認してしまう癖が今の亮にはついているらしい。 覗き込んだ身体には怪しいところは見つからない。 「ノートの情報読んでる途中で、もうウトウトし始めてたよ? お腹いっぱいになって眠くなっちゃったかな」 「そっか。ごめんね、古本屋さん、せっかく色々教えてくれてたのに」 「いえいえ。もう僕の知ってる情報は全部教えた後だったし、問題ないよ」 少々落ち込み気味に謝る亮に対し、そう言って雨森は笑って見せた。 「それに亮くんが寝てる間も僕は退屈しなかったしね?」 「? どういうこと?」 「ずいぶん寝言言ってたよ〜」 「……え」 さっと亮の顔から血の気が失せる。何か嫌な予感がする……。 「シドー、暑いよーって。お部屋が暑かったからそんな夢見ちゃったかな」 「…………。」 亮は固まったまま微動だにできない。 「ねぇ、シドって誰? 亮くんの好きなバンドの人? 海外の俳優さん? おじさん最近の若者のトレンドには疎くてさ」 「…………ど、どちらかというと、俳優さん、かな……」 どちらかというと――などというよく分からない接頭語をつけ、辛うじてそう答える。 そこではたと気がついた。 タオルケットをそろそろとお腹の位置に掛け直すと、雨森に気付かれないようにそっとズボンの中に手を入れてみる。 (!!) 指先に触れるのは冷たく濡れた下着。 明らかにやらかしてしまっている。 (マジかよぉっ! オレ、人ん家で何してんだっっ) この感触はおもらし……というわけではない。もっと別の恥ずかしい生理現象が眠っている亮の身に起こった証だ。 「へぇ、俳優さんかぁ。どんな映画に出てる人なの?」 「ごめ、古本屋さん、オレ、トイレ!」 雨森の言葉を最後まで聞く余裕もなく、亮はタオルケットを抱えたままトイレへとダッシュだ。 和風便器を備えた薄暗い個室の中で、亮はズボンを下げ絶望に頭を抱えた。 (身体がだるかったの、これが原因かよ……) 水色トランクスは見るも無惨に汚れ、既に一部は固まり始めているようだ。 不幸中の数少ない幸いと言えば、ジーンズは生地が厚いため、上からズボンを履いてしまえば意外とわからない……ということくらいだろうか。 (古本屋さんちきて、勝手に昼寝して、おまけに恥ずかしい寝言言ってムセーするなんて、オレ……スパイとか向いてないのかな……) がっくりと肩を落とし、うなだれながらズボンを上げる。トイレットペーパーで取り敢えずの処理はしたのだが、それでも股の辺りがどうにも気持ち悪いことにかわりはない。 「亮くん、プリン、お土産に用意しといたからねぇ」 そんな亮の暗澹たる気持ちとは裏腹に、外からは雨森の脳天気な声が聞こえてきた。 |