■ 王様と子供とペンギンの話・4 ■


「…………」
 シドはその様子を黙ったまま観察する。亮が登りやすいよう身体の傾きを直し改めて仰向けに寝そべってやれば、亮は上半身を起こし胸に抱えていたタオルケットをぽいっと背後へ放り捨てていた。
 見下ろす目は半開きで、眉は曇っている。むすっと閉じられた唇は若干とがり気味だ。
 不機嫌そのものな顔つきで少年は馬乗りになってシドを見下ろしている。
「どうした?」
 そう笑いをこらえて聞いてみれば、完全に怒った口調で文句をこぼす。
「どうしたじゃねーよ、エロ外人。安眠妨害だ」
「妨害? おまえがベッドから転がり落ちそうなのを助けてやっただけだが」
「嘘つけ、エロいとこばっか触りやがって──」
「どこの話だ」
「背中触っただろっ」
「おまえの中で背中はエロい部分なんだな、なるほど……」
「っ、そ、そーゆーこと言ってんじゃなくてだなっ……、そう、なんか変な電波出しながら触るなって言ってんの! 変なぞくぞくするエロ光線手から出しながら触るから、オレの背中も変な感じになっちゃうんだよっ」
 電波だのエロ光線だの、聞いたこともない単語を並べ立てて応戦する亮の頬はほんのり朱が差し、息が熱く上がっている。
 シドは唇の端をあげ少々意地悪に微笑むと「イザはそんなもの出さない」と腕を伸ばし、見下ろす亮の頬を撫でていた。
 目に見えてびくんと身体を硬直させると、それが悔しかったのか亮はますます不機嫌な顔になり「出してる。ぜったい、出してる。シドなんて、イザじゃなくてエロ・ヴェルミリオだっ」と言い放つ。
 だがそんなムード皆無な台詞を吐きつつ、亮はそろそろと身をかがめ、顔を近づける。シドは何も言わず目を細めそれを眺め、亮にされるままだ。
 潤んだ半眼は亮の欲情を滴らせており、半開きにされた唇から漏らされる熱い吐息はシドの欲情を煽る。
 しっとりとした感触を伴い、小さな唇がシドのそれを塞ぐ。
 とまどい気味にシドの薄い唇をぺろりと舐め、次に軽く歯を立てかじってくるノックのようなキスは、早く早くとねだっているようで、シドは笑みを強めその要請に応じていた。
 おずおずと差し出されている舌を絡め取り、深く亮の口腔へ潜り込む。
 反射的に引こうとする小さな後頭部をぐっと引きつけ、さらに深く貪れば、細い腰がひくりと震えるのがわかる。
 濡れた音を恥ずかしげもなくたて、たっぷりとしたキスを施した後解放してやれば、亮は息苦しさだけではない荒い息をつき、とろんとした眼のまま自分との間につながる透明な糸を無造作に手のひらでぬぐった。
「おまえはすぐに盛る」
 己の腹の上にまたがった亮のものが兆しているのを揶揄するように軽く腰を揺すってやると、みるみる頬を赤くし、ドスンと音を立て拳でシドの胸を強打する亮。
「こら心臓を叩くな、殺す気か」
「うっせ、バカシドっ。おまえが全部悪いんだからなっ」
 そういうと亮は身をかがめシドの首根っこにぎゅっと抱きついた。まるでユーカリにしがみつくコアラの風情だ。
「なんだ、どうした?」
 いつも以上に甘えたモードを発動しているらしい亮に、シドが髪と背を撫でながらゆっくりとした口調で問いかけてやれば、亮はシドの首元に鼻先をつっこんだまま聞き取れないほどの声で呟く。
「カラークラウンとか、シドには似合わねー」
「…………そうか」
「どこも、行くなよ」
「…………」
 ドキリとした。亮は今回キースがここへ来た理由は知らないはずだ。
 こいつの言葉は時々妙に核心を突いてくると、シドは驚くばかりだ。本当に動物の勘とやらがあるのではないかと思ってしまう。
「俺がどこに行くというんだ。おまえこそちょろちょろして良からぬ輩に連れて行かれるなよ」
「オレはちょろちょろなんかしてねーもんっ」
 むっとして顔を上げた亮の唇を再び塞ぐと、亮のシャツの中に右手を潜り込ませていく。
 反射的に逃げようとする身体を閉じこめるため、シドはくるりと回転すると焦ったように暴れる身体をベッドへ縫い止めのし掛かっていた。
 一見細身に見えるがその筋肉の重量でシドの体重は亮の倍は優に超している。こうなっては亮にどうすることもできない。
「わ──っ、重いぃぃ、バカシド、や──っ、ん……」
 少しだけ押さえを弛めてやると文句ばかり言う唇を封じ、深く口づけて堅くした舌先で上顎をくすぐってやる。
 それだけで反抗的に突き放そうとしていた細い腕は、何かを堪えるようにシドのシャツの肩口をくしゃりとつかみ、かすかに震えたまま今度は放そうとしなくなるのだ。
「……っ、ぅ……、ん……」
 苦しそうな──だが甘い呻きが亮の喉の奥から漏れ、シドは何度も髪を撫でながら狭く熱い口腔内をさらに堪能する。
 おそるおそる触れてくる小さな舌を絡め取り吸い上げると、亮のほんのり甘い唾液をも飲み下していく。
 ちゅぷ……ぴちゃ……と、濡れた音がやけに大きく室内に流れ、亮はその音で耳からも淫靡な興奮に落とされていくようだった。
 とろとろと口の端からこぼれ落ちるどちらのものとも言えない唾液が、カーテンの向こうからのぞく青い月明かりにてらてらと光っていた。
「……ふ、……ん……」
 鼻にかかる切ない声。
 わずかばかり顔を離し、視線を亮の視線に合わせると、蕩けた黒い大きな瞳がシドの顔を映し込んでいる。
 今、この部屋には二人だけ。いつもの部屋の、いつもの夜。
 シドと亮の場所がそこにはあった。
 荒い呼吸で薄い胸がせわしなく上下している様は、酷く扇情的だとシドは思った。
 亮の頭が回転し始める前にシャツのボタンをはだけさせ、緩めの短パンもベッドスローの向こう側へ投げ落とす。
 一日不機嫌だった少年への仕置きと、仕事をがんばった彼への褒美と──そして無意識に自分を煽る存在への報復をどうしてやろうかとシドはほくそ笑み──、だがその動きはそこでなぜかピタリと止まっていた。
 短パンを脱がして現れた亮のお気に入りらしい空色ボクサーパンツ。
 そこに書かれる白抜き英字のデザインロゴが、彼にこう亮の主張を伝えていた。

『私はなすびとイタリア男が大好きです』

 おしゃれなブロック体で描かれた謎の英文に視線を固められたシドは、頭痛を覚え眉間をぐっと揉む。
 わかってはいる。これは絶対履いている本人は内容を理解していない。
 だが、ここにきてこの文言はあまりに酷い。心を折ることにかけては無慈悲なまでの冷や水だ。
「なんだこれは。わかって履いているのか」
「…………? な……に……?」
 しかしまだまだ酸欠気味の亮にシドの言う意味を理解する余裕はなく、トロンとした眼のまま小さく首を傾げるのみだ。
 その無防備な仕草にシドの苛立ちと嗜虐心が同時に惹起され、ちろりと自らの薄い唇を舌先でこする。
 このバカには自分が何を主張しているのかしっかりわからせてやる必要がある──と思った。
「イタリア男などクソだと言っている」
「???」
 シドが突然何を言い出したのかさっぱり理解できていない亮は、頭の上にハテナマークを乗せたまま、ぱちぱちと二度瞬きをした。
 そんな様子の亮を見下ろすと、シドは空色パンツに口唇を落とし、ざらりとした薄い布地の上から亮の堅く兆したそれを飲み込んでいく。
 すでに痛いほど張り詰めしっとりと布地を湿らせていたそれは、思わぬ刺激に子ネズミのごとく反応し、シドの舌先を押し返す。
「ふわっ、な、んで上から舐めんだよっ、……やだ……、シド……」
 下着の上から施されるざりざりとした冷たい舌の動きに、亮は全身を真っ赤に染め、慌てたように起き上がってシドの頭に手を掛けた。
 だがそんな抵抗など片手で軽くいなし、シドが先端があるであろう位置を意地悪に噛むと、「ひんっ」と情けない声を上げ、少年は早々に放ってしまう。
 幼いそれが数度トクトクと脈打つと、じんわりと空色が濃くなり、シドの舌先に布地を通してゲボ因子を含んだ亮の味がしみこんでくる。
 じゅっと下品な音を立てそれを吸い上げてやれば、少しだけ柔らかさを取り戻したそこは、十代の少年らしく再び反応を返し始めていた。
「俺はあいにくイタリアに生まれたことがないからな。代わりに茄子を使えばいいか? 確か冷蔵庫に……」
 冷蔵庫にどんな食材が入っているのかシドは確認すらしていないが、敢えて意地悪くそう言ってやれば、亮は焦ったように目を見開く。
 どうやら我が家の冷蔵庫には、残念ながら件のストックがあったらしい。
「な……なんのこと、言ってんだよ、エロ! 茄子なんか使うか、バカっ! 変態! エロ! 変態!」
「変態はおまえだろう亮。こんなところに──」
 ぐっと顔を亮の顔へ近づけると、シドの爪先が煽るように英字ロゴをくるくるとひっかいていく。
「んぁっ、──っ」
「────などと言う主張をでかでかと書くなど、元おまえの英語講師として嘆くしかない」
 耳元でロゴの和訳を囁かれ、亮は言葉を失い泣きそうな顔で自分の前を隠そうとする。
「違う」「そんなの知らない」「勝手に読むな」など泣き言を言いながら怒りまくる亮の手をつかみ、隠すことさえ許さないシドは、とろとろに汚れてしまった下着をジッと見下ろし、もう一度その内容を今度はネイティブの英語で復唱してやった。
 頭上から降りてくる不必要に甘いバリトンと冷たい琥珀の視線に、亮はもじもじと足をこすり合わせ、若干潤んでしまった瞳で羞恥に震えながら見上げるほか何もできない。
 しかしそんな艶かしい目元とは打って変わって、シドが自分をからかって遊んでいることを熟知している亮のその口元は、怒りと悔しさと今後の展開への不安で完全にへの字だ。
「そんなん、知らねーもん、ただ、英語の感じがかっこよかったから、買っただけだもん。オレ、茄子嫌いだもんっ」
「嘘をつくな。味噌汁によく入れるだろうが」
「もう嫌いんなった。今、嫌いんなったっ」
「ほう……」
「やだっ、ぜってーやめろよっ、茄子嫌いだかんなっ!」
 どうやら亮は本気でシドが茄子を持ち出してくるとでも思っているらしい。
 足をばたばたさせて食材を拒絶する亮の言葉はいつにもまして子供っぽく感じ、シドはさらにいじめてやりたい気持ちが抑えられなくなってしまう。
 いかんいかんと思いつつも、シドはわざと立ち上がるそぶりを見せ──
「好き嫌いは良くない」
「ううぅぅぅ……、クソバカ変態ぃぃっ、シドは茄子よりもっと嫌いだっ!」
 ベッドの上で立ち膝になったシドへ向かいぽかぽかと繰り出される子供パンチは、日頃戦闘訓練で教えている格闘術とはほど遠いもので、やれやれと思わず苦笑してしまう。
 その子供パンチを両手で受け止めると、シドはそのまま身をかがませ首筋をちゅっと吸い上げた。
「っ、ん……」
「嫌いなものも残さず食べないと、いつまでたっても大きくなれないぞ?」
「っ、子供扱いすんなっ、てか、違う! なんかおまえの言う意味たぶん、いろいろ違う! 」
 抗議をわめき立てる少年を再びベッドへ縫い止めながら、かすかに尖りを見せ始めていたベビーピンクの胸の飾りに軽く歯を立て舌先で先端を転がす。
 ポスンとマットレスへバウンドする頃には、亮の身体は力を失くし、弱々しくシドの肩を押し返すのみとなっていた。
 まったく、どこもかしこもこれほど感度がいいと困りものだとシドは思う。
「……ゃ、……ぁ、ぁ……っ、むね、こりこり、だめだ……っ」
 リクエストに応えもう一方の飾りをこりこりと冷えた指先でこねてやれば、亮は言いたかった文句すら言葉にできない状況に追い込まれていく。
 元々胸をいじられることに弱い亮は、ふっ、ふっ──と息を殺すので精一杯であり、にらみつけようとした視線すら甘くして、自分に悪戯するシド・クライヴの姿を眼に映していた。
 きれいな顔からのぞく赤い舌も白い歯列も、なにもかもが淫猥に見え、亮はシドとするそのことしか考えられなくなっていく。
「おまえの大事なパンツはもうドロドロだが──どうする」
 するりと下着の上から屹立をなで上げられ、亮は情けなくも半泣きでぶんぶん首を振り「も、いらない。も、捨てる!」と叫んでしまっていた。
「二度と意味もわからん言葉の下着を買うな、ばか者」
 シドは苦笑を堪え敢えて冷えた声のままそう言うと、空色ボクサーパンツに手を掛け、一気に抜き去り、彼方に放り捨てる。
 同時に抜き去り際、わずかに下着に引っかかった亮の屹立が、ぷるんと全身をあらわにする。
 一度放ったというのにもうすっかり起ち上がった幼いそれは、濡れそぼり、先端を今にも暴発させそうにひくひくと息づいていた。
 シドはそれをちらりと見ると、触れることなく、代わりに亮を抱き寄せ小さく口づけをする。
「ん……、ぅ……、は……」
 ちゅっちゅっと音を立て唇をついばまれるたび亮は追い込まれていく。
 キスは好きだ。
 何度も何度もして欲しい。
 でも、今はもっと違った刺激が欲しかった。
 それだけじゃない、もっとすごい、シドから与えられる快感。
 飢えた子犬のようにはぁはぁと荒い息を吐き、亮はついに自分からシドの腹に自らのそれをこすりつけ始めてしまう。
「どうした、ん?」
 わかってるくせに──と恨みがましい目で見るが、シドは相変わらずの涼しい顔だ。
「し、たい」
「何がしたい?」
「そ、っんなの、決まって、んだろっ」
「……決まってるのか」
 まじめな顔でそう返されれば、亮はもうやけくそ気味に言い返すしかない。
「シドと、せくす、したいって言ってんのっ!」
「…………」
 口の片端を僅かに引き上げ、シドが笑う。
 亮はいつも思うが、悪者にしか見えない笑顔だ。
「なんで、するときは毎回オレにこれ言わせるんだよっ。こういうの、野暮って言うんだろ!? シュラが言ってたっ」
「……おまえあいつに何を相談してる」
「ち、違うぞ、シドのことなんて一言も言ってねーし。ただ、エッチするとき、毎回セックスしたいって言わせるヤツ、どう思うって聞いただけだしっ」
「…………」
 難しい顔で黙りこくってしまったシドに、亮は必死にフォローを入れる。
「と、友達の話だけどてちゃんと言ったしっ」
 が、亮のフォロー空しくシドは渋い顔で深々と溜息をつくと、亮の唇をむにゅりと親指と人差し指でつまみ上げていた。
「わかった。もうおまえは黙ってろ、発情高校生」
 そう言って一瞬にらみ据えるとキス。
 まるで亮の言葉を吸い上げてしまうように次第に深く口づけると、シドは亮の幼い屹立に冷えた指先を絡め、容赦なくくちゅくちゅとこすりあげ始める。
「ぅ……っ、ん……、ぁ、ぁ、ゃ、で……ちょ、待っ……ふあぁっ」
 制止の懇願も聞く耳を持たれず、シドの手は止まることをしない。
 そんなわけで、限界まで張り詰めていた亮は情けなくもあっという間に二度目の絶頂に達し、がくんと腰を揺すってシドの大きな手の中でミルクを放つ羽目になっていた。
 まなじりに快楽の涙をためて目を閉じる亮は、息を荒げたままぐったりとシーツの海に沈んでいく。
「本当に少し目を離すとろくなまねをしないな、おまえは」
 手の中で痙攣する幼いそれが可愛らしく頭を垂れていくのを感じ、シドは亮の様子を眼下に眺めながら目を細めた。
 そのまま手のひらのミルクを指先に絡めて潤滑油代わりにすると、シドは亮の花冠へゆっくりと指先を潜り込ませていく。
 気息奄々となった主に関係なく、亮の花冠の内側は、生意気にも侵入者に抗議するようにきゅっと縮まって見せていた。
 シドはぺろりと己の唇を一舐めすると、氷の指先を器用に蠢めかせ、狭いそこをあやすように進んで行く。
「んぁ……、ぁ、ろくなまね、て、なんだよっ。ォレはただ……、ちょ、きい……だけ、で……っ、ぅん……、も、ちょと、タイム、ん、ぁ、ぁ、……っ」
「わかったわかった。ちょっと聞いただけか。じゃあしょうがないな」
 指を二本に増やし、中で間接を折り曲げバラバラの動きで内壁を軽く引っ掻いてやれば、しがみつくようにそれはシドを締め上げる。
 シドの指の動きを覚えているかのように、きついそこはシドの指をうちへうちへと誘っていき、いつも撫でてもらえる場所へ冷たい刺激が到達すると、ねだるように伸縮を繰り返した。
「……ひぁっ、ぁ、こりこり、すんな、ぁ、ぁ、音、やだ……」
 シドの指がかき回すたび空気を含んだ水音が可愛らしく鳴り、それに合わせるかのように亮の身体が跳ねていく。
「怖い、か?」
 思わずそう聞き、シドは口をつぐむ。
 こんなに安らいだ状況だというのに、やはりまだ自分は恐れているのだと再認識させられる。
 亮が言ったことは本当だ。自分のこの癖は野暮以外の何者でもない。だが、聞かずにはおられないのだ。
 亮の傷が癒えていないことに対し、自分は未だ恐れを抱いている。
 だから何度も確認してしまう。亮から求められねば自分は進めない。
 こんな風にし向けておいて、相手から常に求めさせるなど、男としては卑怯だとさえ思う。
 だがそれでも──。
「どうしたい?」
 シドは亮の耳元でそう囁く。
 したいのは自分だというのに、また今日も亮から言わせるのだ。
「シドの、奥、ほし……、オレ、中、もっと……」
 いつもは憎まれ口しか叩かない少年の口から甘いねだりを聞くと、ぞくぞくと背筋に快楽の柱が登り、シドのリミッターは外れる。
 長い腕を伸ばし、ベッドサイドテーブルから取り出したスキンのパッケージを歯で割き中身を取り出すと、がっちりと起ち上がり脈打つ己のものへ片手で装着していく。
「え、シド、な、に? それ、……」
 亮は自分の上で展開される見慣れない光景に、驚いたように目を見開き、次に照れたように目をそらした。
 シドの黒々と隆起した大きなものが薄いゴムで締め付けられている光景に、異常に照れを感じたらしい。
「そんなの、恥ずいし、なんで? いつもと、いっしょで、ぃぃ、だろ……」
「なんだ、俺のを見て興奮したか、エロガキ」
 にやにやと笑ってみせれば「違う!」とむくれかけるが、シドはかまわずそれを亮の花冠に押し当て、「試してみればいい」とわざと下卑たことを言いながらぐっと腰を進める。
 強い締め付けとそれに反する甘い蠢きは、シドに歯の浮くような快感を与え、シドは奥歯を噛みしめながら亮を貫いていく。
「ぅ……っん、ぁ、ぁ、は……っ、なんか、ぬるぬる、する……」
「こちらの方がおまえへの負担が少なくすむ。後始末も楽だ」
 額に汗で張り付いた前髪をよけてやりながらそう言うと、一気に奥まで押し入っていた。
 ぱちゅり──と肉のぶつかる音がし、ぎくんと亮の身体がこわばる。甘い嬌声が寝室に響いたのは一拍置いてからだ。
 ぶるぶると震える亮の身体を見下ろし、今日二度目の反省の溜息をつきそうになる。
 修司にこれを渡されるまで、ゴムの使用など頭にもなかった自分は本当にソムニアの感覚に慣らされきったダメ人間だと思った。
 ソムニア──特にクラウン経験者やそれに準ずる高クラスの者は同性同士の交渉でこういった避妊具を使う習慣がない。あまりに能力が強いと一般人との性交は危険が伴い行えないし、同程度の力を有するソムニア同士では病気の感染などあり得ないからだ。
 現にセブンスでは相手が女性ゲボでない限り、基本生での挿入となる。もちろんその方がゲボ能力の活用という面においても僅かばかりだが数値が上がるため、純粋に能力活用目的で来るクラウンは男性ゲボを選んだり、女性相手でも直腸性交を求めるケースが多い。
 亮の場合、最初に身体を開いた滝沢も、セブンスで身体を使ったクラウンたちも、全てそのまま挿入を行っていたであろうことは想像に難くなく、おそらく避妊具をつけての性交渉などしたことがなかったに違いない。
 亮が東京駅で発見されたあの日、修司からの差し入れとして大きな包みがホテルに届いたときには思わず目を疑った。
 各サイズ取りそろえられた様々なメーカーのコンドームの山に、シドは後から修司へなんとコメントをすれば良いか答えに窮したものだ。
 一緒に包みを開けた秋人は一瞬の後爆笑し、「さすが家族の考えることはちゃんとしてるわ」とひたすら感心して、使う当てがあるのかないのか、自分に合いそうなサイズのものをいそいそと持ち帰っていた。
「けど、なんか、変な感じ、する……」
 最初の衝撃がゆっくりとおさまり、じっとシドを見上げる亮が妙に照れたように視線を泳がせる。
「すぐ慣れる。おまえも将来誰かとするときのために使い方を覚えればいい」
「っ──、んなの、大きなお世話だ……っ、ぁ、ぁ、ゃ、きゅーに、動くなぁ……」
 まさか修司からの差し入れだとも言えないシドは、可笑しそうに片眉を上げると、亮のいいところをゆっくりゆっくりとこすり上げ始める。
 薄いラバー越しでも亮のゲボは容赦なくシドを刺激し、亮により与えられる至上の快感に脳髄を揺すられるようだ。
 生とは違う卑猥な音が部屋を満たし始め、亮はいつもと違うその感覚に興奮したのか、いつも以上に乱れる。
 自らもシドの腹に擦りつけようと腰を動かし、両手はシドの背や腕に回されたまま猫の子のようにムキになって爪を立ててくる。その爪の先からも溢れるゲボが流入し、シドの全身に寒気にも似た熱が迫り上がっていた。
「ぁ、あっ、……、シド、なんか、ほんとにせっくすしてる、かんじ、する……、こんな、エロいの、つけて、オレ、しどと、してる……」
「気に入ったか?」
 亮の視線がちらちらと己のものに注がれているのを感じたシドは、笑いを堪えてまじめな顔で亮を膝の上へ抱え上げた。
「ふわっ……、ばか、じゃねーのっ!? 気に入るとか、ねーしっ」
 頬を真っ赤に染め噛み付きながらも、亮の細い腰は自分の意志とは無関係に動いてしまうのをやめられない。
 シドがクッションを背に横たわれば、亮は自ら膝立ちになって腰を揺すり続けてしまう。
「ぁ、ぁ、ぁ、なんか、変、っ、きにぃてない、けど……、きゅうきゅう、するのが……っ、きもちぃよぉっ」
 下から眺めるシドの視界には、ぴょこんと反り返り濡れそぼったまま己の腹を打つ未成熟なものも、痛いほど起ち上がり桜色に染まった二つの乳首も、そして熱に浮かされたように夢中になっている亮の情欲に濡れた表情も、全てが捕らえられ──セーブすることも忘れて何度も何度も激しく突き上げ続けてしまう。
 シドの腹は亮のこぼした果汁でどろどろに汚れ、結合した部分からは腰を跳ね上げるたびに水音とパンパンと肉を打つ音色が響き渡る。
「ん……っ、ん、ぁ、ぉく、っ、シドの、つめた……、」
「……ふ……っ、」
 先端まで抜きかけ、ごりっと奥まで貫けば、亮はついに悲鳴にも似た声を上げ、びゅくんと背を反らせていた。
 未成熟な先端から色の淡くなった精液が数度吹き上がり、シドの胸元にぽたぽたと散った。
「…………っ」
 絶頂を迎えた亮の内壁の動きに、シドはわずかな呻きを上げると、どくどくと大量の精を放出する。
 その熱と動きで、亮は追い打ちを掛けられたようにもう一度、達していた。
 びくんと一度身体を痙攣させると、力尽きたかのようにシドの上に倒れ込む。
 それを抱き留めたシドは、ゆっくりと亮の中から己を抜き出していく。
 ぞくぞくとそれを感じながら、亮は溜息を吐くように呟いた。
「きもち、かったけど……、やっぱいつものが、いいかも……」
「……亮は生で俺を感じたいと、そう言うことか」
 わざと意地悪くシドが聞いてやると、焦ったようにこう続ける。
「ば、バカじゃね? そう言う意味じゃなくて、中に冷たくて熱いのがいっぱいじんわりなんねーから、だから、違う、そうじゃなくて……っ」
 言えば言うほどどつぼにはまっていくことに気づいたらしく、とても修司には聞かせられないような言い訳を続けた亮は、次第に言葉をなくし、ついには黙ったまま唇をとがらせて不機嫌顔だ。
「ま、まぁ、このまま寝れるのは、いぃ、かな……」
 そしてその不機嫌も長くは続かず、すぐにまぶたが降りてくると、幸せな顔のままうとうととシドの上でまどろみ始める。
 どうやらお疲れモードの亮は、今日は一回戦のみで沈没してしまったらしい。
「…………」
 すうすうと寝息が聞こえ始めると、シドはそっとその身体を隣へ寝かせ、縛ったゴムをダストボックスへ放り込む。
 ウェットティッシュで軽く亮の身体を拭いてやり、自らも身支度を調え、シドはそっと亮の髪を手ですいた。
「まったく、煽りすぎだ──」
 せっかくの修司の差し入れだが、もしかしたら亮は今後使いたがらないかも知れないと思うと苦い笑いが浮かんでしまう。
 きな臭い動きが周囲で起こり始めている気がする。
 だが、何があろうと、亮がこんな顔をして隣にいればそれでいいとシドは思う。
 寝ぼけ半分にいつものようにタオルケットを探し始めた亮の手に足下から目当てのものを握らせてやると、シドも横になる。
 今度はシドの方を向きタオルケットを抱えて丸くなった亮を抱き寄せ、その熱を感じながら、目を閉じた。