■ 1-11 ■


 背中から、どさりと乱暴にベッドへ投げ落とされる。
 亮はすぐに半身を起こすと、射るような視線で見下ろすシドへ食ってかかった。
「なにすんだよっ! オレはもう出てくって決めた……」
「ヒナが喚くな」
 部屋の温度が一気に下がった。
 亮が瞬間何かを感じ取り、言葉を止めてぞくりと身を固める。
 それと同時にシドの長身が亮の身体を押さえ込み、馬乗りになって白いシーツの海に押し倒す。
「!? っ、放せっ! バカシド!!」 
 もがく両腕を頭上でクロスさせられ、何か冷たい物でマットレスに縫い止められたことに亮は気がつき、さらに酷く暴れてみる。
 しかしそれはベッドの下層にまで杭のように打ち込まれている上、冷気により凍り付き、びくともしない。
「おまえが何なのか、今から教えてやる」
 突然のことに戸惑い、躍起になって腕をほどこうとする亮は、その一言に動きを止める。
 シドの顔がすぐ真上にあった。
 だがそれはいつもの、感情のない冷たさに満ちた無表情ではない。表情はほとんど変わらないが、明らかに怒気を孕んだ突き刺すような冷酷さを宿している。
 シドの手が引き裂くように亮のシャツをはだけた。
 白いボタンが飛び散り、ぱらぱらと音を立ててフローリングの床に降り注いだ。
 亮は考えても見なかった展開に呆然と瞳を見開く。
 何が起こっているのか理解する前に、下半身を覆っていた衣類は下着ごと取り払われ、亮は瞬く間にあられもない姿をシドの眼下にさらしていた。
 それに気づくと、一瞬にして亮の頬に朱が上る。
「な、何で――」
 しかしシドは亮に先を言わせない。
 そんな余裕も与えず、大きな手で亮の両足を開かせると、ばたつかせるそれをしっかりと堅め、唇を亮の幼いモノに寄せる。
「や……」
 亮は己のそれに、シドがゆっくりと舌を這わせて行くのを見た。
 視線がシドと合う。
 シドは亮と視線を合わせたまま、亮自身を咥え込み、音を立てて口中でそれを弄ぶ。
「やだ…、っ、シド、嫌だっ!」
 精一杯の力で暴れてみるが、シドにとって今の亮の力など小動物をねじ伏せるがごとくである。
 くちゅくちゅと嫌らしい音が亮の耳を叩き、あまりの羞恥に涙がにじむ。
「んっ、やっ、やめ…、シドぉっ!」
 信じられなかった。
 チタンのように硬質で完璧なあのシドが、今、自分にこんなことをしている。
 ノック・バックの治療の時は、決してこんなことはなかった。ただ亮が気持ちよくなる分だけ、キスと指先で奉仕してくれていただけだった。
 だが今は違う。
 自分は今正気だし、薬も使っていない。
 それなのに、なぜシドは今自分にこんなことをする?
 ほんの少し。
 無意識のうちに自分が望んでいたこと。
 自分だけが乱れるのは嫌だ。
 だから、こうやってシド自身も楽しんでくれればいい。
 そう思っていた。
 でもそれは間違いだったことに、亮は気づく。
――嫌だ。
 こんなの、嫌だ。
 こんなの、違う。
 違ってた!
 綺麗な顔が動く度、亮は快楽を引き出され、自分の気持ちとは裏腹に身体は高められていく。
「シド、っめてよ…、も、わかったから、こんな、の、やだよぉっ!」
 涙がこぼれ落ちた。
 望んでいたと思っていたことは、亮にとって悲しいだけだった。
 しかしシドはそんな亮の涙を平然と見過ごし、今度は専用のジェルをつけた指先を、亮の中へ押し込んでいく。
「っん、んあっ、やぁっ」
 亮のいい場所は、全てシドに知られてしまっている。
 熱くなる身体と、冷たい指先。
 滾る自身を包み込む、ひんやりとしたシドの舌。
 否応もなく亮の呼吸は上がり、びくびくと身体が反応する。
「っ、はっ、あっ、あっ、やぁ、んんっ、」
 逃れようともがいていた身体は力をなくし、今はただひたすら己の快楽を押さえることに必死だ。
 しかしシドは許すことをしない。
 歯を食いしばって堪える亮を冷徹に見据え、行為を続ける。
 シドの指がえぐる度、舌先が亮の先端をいらう度、亮は達しそうになる自分を必死で押さえた。
「も、だめ、シ、も、ォレ、でちゃ、シド、だめ、っ、あっ、んんっっ、やっ、だめえぇぇぇっ!」
 ひくんと大きく身体をこわばらせると、亮の快楽の滴は堰を切るように放出されていた。
 亮は絶望的な気持ちで身体を震わせる。
 シドはそれを全て口中で受けていた。
 そしてそのまま身体を起こし、ぐったりとした亮の唇へ口づけていく。
「!? っん…、」
 無理矢理口の中へ、たった今己の出したミルクを流し込まれる。
 はき出そうと暴れる舌をシドの舌に絡め取られ、頭を片手で乱暴につかまれ固定される。
「ぐっ、んんっ、んっ、かはっ、ごほっ…」
 飲み下した亮はやっと唇を解放され、むせ返った。
 目を開ければ眼前にシドの綺麗な顔がある。
 口元を汚した白い滴りを無造作に親指で拭き取りながら、シドはやっと言葉を吐いていた。
「それがおまえの味だ。――わかるか」
 混乱して何も応えられない。
 亮はただ首を何度も振るしかなかった。
 何度も飲まされた嫌らしい味。
 生臭くて、思い出したくない最低の味。
 自分のも他人のも同じだ。
 シドはどうして、こんなこと、する?
 飲み下した喉の奥が、ほんのりと甘い。
 ああ、そうだ。
 これ、知ってる。
――あのときの、味だ。
 いつか、得体の知れない生命体を現実で呼び出してしまったとき。
 あのとき、あいつらに飲まされたおいしい味。
 あの味が、少しする。
「――ぁ…まぃ」
 かすれた声が、微かにこぼれた。
 その声をすくい取るように、小さく口づけられる。 
「俺の力がほんの少し、強まったのがわかるか?」
 その口づけは、先ほどよりさらに温度が下がっているようであった。
 亮は朦朧とした視線を上げシドの目を見た。
「これを求めるソムニアに、おまえは狙われる」
 再びキスをされ、力をなくした亮の身体を、シドの唇が滑り降りていく。
 首筋に口づけられ、鎖骨、胸元、脇腹と、彼の名前通りの深紅の花弁を散らされる。
 亮の胸の飾りは長い指先に転がされ、少し意地悪につまみ上げられていた。
「んっ、ふぁっ、やだ、シ…」
 ひくりと身体を反り返し、亮の身体が震える。
 快感を堪えるように身悶える幼い肢体に、濃密な色気が立ち上る。
「おまえはゲボだ、亮」
 シドはそんな亮の耳元に唇を寄せると、耳朶を噛みながら囁きかける。
「ゲボとは生贄。神への供物。神をも欲する身体と色を持つ」
 無意識に亮は小さく首をかしげてみせる。
 その白痴の動作にすら人を狂わせる魔が潜んでいる。
 シドはそれに目を細めると、両足を抱え上げていた。
 亮の薄く色づく窄まりは指を突き入れられ、二本、三本とその数を増やされていく。
 亮は身体を震わせ、その快楽に歯を食いしばった。
 自分は今、正気なのだ。
 薬は使っていない。
 それなのに、こんなことをされて気持ちよくなんてなってはいけない。
「や、っ、…め、シド、ぃや…だぁっ!」
「その色ゆえに、ソムニア以外の者にもおまえは欲される」
 指が抜かれたと思った瞬間、衝撃が亮を襲った。
 何か今まで味わったことのない大きなものが、亮の蕾をこじ開け、凄まじい質量で亮の中に埋め込まれていく。
――熱い!
「っ、!! っ、ぃぁっ…ぁっ、ぁ、ぁああああっっ!」
 呻きと悲鳴が亮の口から迸っていた。
 身体が反り返り、頭上でクロスされた手が、ちぎれるほどにシーツを引き絞る。
――凍る! 熱くて、凍る……
 亮の呼吸が吐き出されるのを待って、さらに奥までそれは打ち込まれていた。
 今まで届いたことのない場所を、熱い氷柱が突き上げる。
 揺れる視界に、前をくつろげ、自分を貫いているシドの姿が映った。
「…な、んで? なん…で、シド…、こん、なの、な、んで?」
 浅い呼吸で同じ言葉ばかりが口を突く。
 根本まで亮の中にその身を沈めたシドは、亮の顔に顔を寄せ、冷たい声音で答える。
「こうしておまえと繋がるだけで、微かに異神からの小波を感じる。おまえにもわかるはずだ。俺へと何かが流れ込んでいることが」
――何かが、開いてる。
 オレの中から這い出ようとするアレへの扉が、開いて…繋がって…シドに、オレと、繋がって、も…わかんな…
「わかんな…、も、やめ、シド…」
 受け入れている場所は、きっとこれ以上ないというくらい押し広げられている。これでこの中のものが動いたら、きっと自分は壊れてしまう。
 恐怖が亮を縛り、呼吸がどんどん上がっていく。
 その息を止めるように、シドは亮に口づけた。
 恋人のような濃厚なキスに、恐怖に見開かれた亮の瞳に再び微かな快楽の色が揺れ始める。
 何度かついばむように唇を弄ばれ、亮は思わず目を閉じてその感覚に酔いしれた。
 蕩けるように力が抜ける。
 それと同時に、シドはゆっくりと腰を動かし始めていた。
「っ!! ひぁっ、」
 小さな亮にとってあり得ない質量が彼の中を移動し、窄まりを捲り上げ、内壁を擦りおろす。
 強烈な排泄の快感が亮の脳を白く焼いた。
「っ、あぐっ、んっ、!!」
 続いて再び息苦しいまでの圧力で、焼けた氷柱が再び彼だけの場所へと突き上がっていく。
 みちりと甲高い水音がした。
「ぃぅんっ、」
 一番深いその場所は、触れられるだけでどうにかなりそうだった。
 それをこんな凍り付く熱で突き上げられて、亮はもう意味をなした言葉が話せない。
 ゆっくりと数回それを繰り返され、亮はそれだけでもう抵抗する力を失っていた。
 揺すられながら、繋がったシドへ大きな波や小さな波が伝わっていくのを感じる。
「おまえが悲鳴を上げる度、快感を感じる度、俺の中のイザが揺り動かされる」
 シドの呼吸もわずかに上がり、二人の呼気は白く煙り始める。
 シドの動きが徐々に早まっていく。
 少し慣れ始めた亮の内部は、ニチニチと嫌らしい音を立て、シドのものに擦り上げられ続けた。
「っ、あっ、んっ、ぃぁっ、はぁっ、あっ、あ、」
「己の力が呼び起こされていくこの感覚。それをソムニアは本能的に求める」
 喘ぐ亮の腰が抱え上げられ、さらに奥へそれが突き立てられる。
「ぃぎっ、」
 舌を突き出すように悲鳴を上げた亮の身体を抱きしめると、シドは打ち付けた両腕を解放してやった。
 両手が自由になった亮は、必死にシドのシャツにしがみつき、ただひたすらその衝撃に耐える。
 辺りの空気にキラキラと星のような煌めきが瞬き始める。
 長い亮のまつげには、微かに白く霜が降りているようだった。
「…シド、も、ゆるし…、ォレ、死んじゃ…、」
 中を突き上げるシドのそれは次第に力を増し、その質量以外に大きなエネルギーを有して亮を責め立てる。
 最初とは明らかに違う。
――凍る。
 凍っちゃう。
 血管も、血も、肉も、
 凍って、透明に、なって……
 熱いのに、
 こんなに、身体、熱いのに、
 中から、みんな、凍ってく――
 シドから受ける快楽を感じる度、亮の中は熱くどろどろとかき回され、それと反するように無機物の氷像へと作り替えられていく感覚に襲われる。
 それでもシドはさらに激しく亮の中を突き上げていく。
「っ、しぃ、シィ、も、だめ、も、…レ、壊れちゃ……」
「おまえはソムニアの力では死なない。壊れない。どんなに俺が力を解放しても、ゲボは壊れない」
 耳元で囁かれる息が冷たい。
「だから、おまえは力を持ったソムニアに犯される」
 目を開けると吐く息は白く煙り、辺り一面、キラキラと光の粒が舞い散っている。
 自分を見下ろすシドの整った顔に、それはあまりにはまっていた。
 こんなに綺麗なのは、夢だからじゃないかと思った。
「ぃぁっ、はっ、」
 シドは亮を抱え上げると、乱暴に突き上げ始めた。
 亮はかすれた悲鳴をあげ、それでもシドの首にしがみつく。
 何度も何度も乱暴に突かれ、亮は声も出ず必死に耐えた。
 苦痛と恐怖だけが亮を苛む。
 どれだけそれが続いたろう。
「無理にこうされるのは嫌いか、亮」
 動きを止め、亮を抱きしめたままシドが囁いた。
 亮はシドの肩に顔を埋めたまま、震える身体でなんとか頷いて見せる。
「なら強くなれ」
 そんな亮の髪にシドの指が潜り込み、やさしく撫でた。
「誰にも搾取されないように。己の意志を貫けるように」
「…つ…よく?」
「そうだ。今のおまえは他人に使われるだけの生贄そのものだ。だがゲボは力をつければ、他のソムニアなど手がでないほどの強力な存在になる。俺はそんなゲボを二人も知っている」
 亮がそろりと顔を上げた。
 目尻に溜まった涙が結晶と化し、ぽろぽろと辺りに散らばる。
 シドの手が亮の頬にかかると、抱え込むように口づけられる。
 甘やかなそのキスに、亮の力が抜けたのを感じ取ると、シドは再び動き始めた。
 今度は優しく、滑らかに。
「っ、ん、あっ、はっ、」
「強くなれ、亮。俺にこんな目に遭わされないほどにな」
 シドの動きが早まると、亮は瞬く間に追い詰められていく。
 突き上げる衝動に何度もいやいやをし、それでもついにその懸命の我慢も限界に達してしまう。
「…、はっ、っ、あっ、シィ、ぃぁぁああああっ!」
 びくんと身体を硬直させると、シドの首にしがみついたまま、快楽の滴をシドのシャツへ吹き上げる。
 シドはぐったりと倒れかかる亮の重みを身体で受けつつ、白く煙った亮のまつげを指でぬぐってやった。