■ 2-12 ■



 ゆっくりと目を開けると、亮は自分が暖かな湯船の中、上から誰かに支えられていることに気がついた。
 視線を上げればそこには心配そうな表情で亮を見下ろすノーヴィスが居る。
「ノ……ヴィス」
 声に出してみると、目の前の青年は安心したように微笑む。
「亮さま、もう少しお休みになっててよろしいですよ」
 その優しい声音に、亮は再びうつらうつらと眠りの中に引き戻されていく。
 ノーヴィスは亮のそんな様子を見つめながら、やりきれない思いに駆られていた。
 亮がセブンスに来て四日目。
 二日目の検査結果報告後から、ひっきりなしにゲストが訪れている。
 ライラックの来訪後、その日一日はレオンのお陰で休むことが出来たが、翌日は一日に三件のゲストがリザーブされ、そして今日は四件ものリザーブが許可されていた。
 朝十時に最初のゲストを迎え、夕方六時過ぎの現在、ようやく三人目のゲストが帰ったところである。
 通常、ゲボが一週間で迎えるゲストの数は、多くて三件。気が向かなければ一ヶ月ゲストをキャンセルし続けることもある。もちろんそれを、ガーネットもいい顔はしないながらも認めている。
 しかし、亮は違う。
 目覚めてまだ二ヶ月だからというそんな理由で、強制的にリザーブを入れられているのだ。
 そんな他のゲボ達と亮の待遇の違いに、ノーヴィスはどうしても納得がいかない。
 しかし、それは彼がどうこう言える問題ではなかった。
 一使用人であるノーヴィスがガーネットに異を唱えることなど、できるはずもない。
 ただ、亮を支えること。亮の身体をケアすること。
 それだけが今彼が出来る精一杯のことであった。
 十分暖まった亮の身体を引き上げると、厚手のバスタオルで優しく全身を包み込む。
 香油を垂らした湯に暖められた亮の身体からは、微かに甘い、花の香りがした。
 自分の腕の中で安らかな寝息を立てている亮が、愛おしくてたまらない。
 自分はこの方にお仕えするために、この世界に生まれてきたのだと、ノーヴィスはそう思う。
 疲れ切って眠り続ける亮の身体を拭き、用意しておいた百合の花の浴衣を着せる。
 濃紺の生地と大きな白い花模様が、亮の黒髪と白い肌に良く映えている。
 蒼の帯を結び、ソファーへ座らせると髪を乾かす。
 柔らかな亮の髪はドライヤーの風にさらさらとなびき、ノーヴィスは夢見るような表情でそれを梳かした。
 このまま次のゲストが来ず、今日が終わってしまえばいいと、ノーヴィスは思う。
 最後のゲストは午後七時にやってくる。
 イェーラ・スティール。
 ゲボの間でもあまり評判の良くない人物らしい。
 できれば今日一度きりで亮に興味を示さず、別のゲボの元へ通って欲しいと思う。
 他の執事達はいかに自分の主人のゲスト人気が高いかを競う節があり、以前はノーヴィスもそんな話をする彼らをうらやましく思ったこともあった。
 しかし主を持った今、ノーヴィスにはそんな彼らの気持ちがわからない。
 ゲストを迎えることがこんな辛いことなのだとしたら、それを自慢する従者はどうかしている。
 ただ、亮の笑顔が見たい。
 悲しい顔をさせたくない。
 ゲストなんかもう来なければいい。

――コンコン

 ノックの音が無情に響く。
「はいっ」
 返事を終える前に、扉が開いていた。
「こんにちは。遅くから失礼します」
 現れたのは長い黒髪を艶やかに下ろした、二十代後半の男。
 そして――
「うひゃー、すげぇ部屋。これがセブンスの中かぁ」
「うわぁ、すごいねぇ。僕ドキドキしてきちゃったよ」
 丸々と太った東洋系の中年男と、そばかすの目立つ十代後半の白人少年がそれに続く。
「あ、あの――、そちらの方々は?」
 ノーヴィスが戸惑ったように、三人へ駆け寄っていた。
 スティールの顔は知っていたが、他の二人は見たことのない人間だ。カラークラウンではない人間は、使用人や医者以外、セブンスへ入ることは、原則として許されていない。
「ああ、この二人はイェーラ種で私の弟分みたいなものですよ」
「え、あの、カラークラウンの方以外は立ち入りが禁止されていますので――」
「こわ〜い。スティール、僕たち使用人に怒られちゃってるよ?」
 少年は小馬鹿にしたように肩をすくめると、わざとスティールの後ろに隠れてみせる。
「彼もお仕事ですからね、アイネ。すいません、躾が行き届いていませんで――。許可はもらっていますよ。ほんの社会見学です」
 スティールの言葉にノーヴィスが目を見開いた。
「許可――ですか!? どなたから――」
「もちろん、ガーネットの許可ですよ? 他のカラークラウンの方々にはあまりお知らせしないようにとのことですが、私の管理下で問題を起こさぬようなら、見学しても良いとのことです」
 ノーヴィスは言葉をなくしていた。
 カラークラウン以外の者がたとえ見学だろうと何だろうと、ゲストとしてセブンスに招き入れられるなど、聞いたこともなかったからだ。
 お待ちくださいと断った後、すぐに下のライス執事長へ連絡を取ってみたが、スティールの言った通り、ガーネットの許可はきちんと下りているらしい。
「おら、もういいだろ? 使用人はあっち行ってろよ。もう七時とっくに過ぎてんだけどなぁ」
 そう言うと、太った男は奥のソファーで眠り続けている亮の方へと歩き始める。
「お待ちください! 亮さまは今日四件目のゲストで、大変お疲れになられていて、その――」
 ノーヴィスは亮に駆け寄ると、庇うように亮の上に覆い被さっていた。
「そんなの俺らの知ったことじゃないだろ? そっちの都合をこっちへ押しつけないでもらいたいよなぁ」
「柳毅。あなたは見学させていただく身なのですから、もう少し言葉を慎みなさい。――ノーヴィス……でしたか? 心配には及びません。あなたの主人を傷つけるようなことは私がさせませんから。本物のゲボを見たいというので連れてきただけなのです。許してあげてくれませんか」
 ノーヴィスのそばに歩んでくると、柔らかな物腰でスティールがかがみ込む。
「さ、あなたは隣の部屋で、あなたの主人が仕事を終えるのを待っていてください」
 戸惑いを見せるノーヴィスの手をつかむと立ち上がらせ、スティールはそのまま隣室へとノーヴィスを追いやってしまう。
「亮さま! 何かあったらお声をおかけください、亮さま!」
 カラークラウンへの対面も考えず、ノーヴィスは亮に向かいそう叫んでいた。
 アイネの失笑と共に扉が閉められ、四件目のゲストタイムが始まった。











『ふぅん、これがゲボ? ただの子供じゃん』
 アイネはソファーの上で眠り続ける亮の顔を見下ろすと、つまらなそうに片眉を上げて見せた。
『いや、俺は興味あるぜ。日本人のガキがどんな顔してやられるのかとか、あの有名人の持ち物がどんな味してるのかとかさぁ』
 柳毅が亮の浴衣の裾をちらりと捲り上げながら、のぞき込む。
 それをスティールがたしなめると、亮の身体を抱え上げていた。
『あなたたちは私の楽しみを手助けするのが勤めですよ? 許可なくこの子に触れないように』
 そのままベッドへと運ぶスティールの後ろ姿を見ながら、アイネが呆れたように首を振る。
『スティールは相変わらず変態だなぁ』
『ま、いいじゃねぇか。それで俺らも楽しめるんなら、なんでもいいさ』
 二人はそれに続き、部屋の中央に置かれた大きな天蓋付きベッドへと向かった。
 ベッドへそっと下ろされたとき、亮の意識が浮上し始める。
 誰かが自分の上にいて、腰に巻かれた帯を解いている最中だ。
「……ノ、ヴィス?」
 キュッと布のこすれる音がし、圧迫されていた腹部の感覚が解けていく。
「目が覚めましたか? 初めまして、亮」
 顔を上げると、長い黒髪が目に入る。
 少し目尻の下がった甘い顔立ちの男が、亮のすぐ上で自分を見下ろしていた。
 わけがわからず、少し首をかしげた亮に、その男はかがみ込み、深く口づける。
「――っ!?」
 驚いて反射的に身をよじろうとした亮を押さえ込むと、男はさらに深く亮の口中を堪能し始めた。
 ちゅっと何度も甘い音が響き、亮の身体から徐々に力が抜けていく。
「――ふ…っ、はぁ…」
「私はイェーラ・スティール。今日四人目のゲストです。よろしくお願いしますね」
 言いながら、スティールの手が大きくはだけられた亮の胸元を滑る。
 まだ柔らかな胸の飾りをスティールの指の腹が、執拗にこね回し始めた。
「っ、やぁっ!」
 目覚めたばかりで見知らぬ男に身体を弄られ、亮は混乱で大きく手足をばたつかせる。
 今までのゲストはそれでも亮の意識がある時に訪れ、亮もそれなりの覚悟をしてそれを受けていた。
 しかし今回は違う。
 意識のない内から身体を弄られ始めるのは、亮にとってここでは初めてのことだった。
 ぼんやりとした意識に昇ってくるのは、ただ嫌悪感と恐怖ばかりで、まとまった考えにならない。
 一月前、滝沢にされていたことが脳裏に蘇ってくる。
「やっ、やだぁっ!」
 逃げ出そうとする亮の身体を、そばで見ていたアイネと柳毅が押さえつけていた。
「おやおや、どうしました? こうされるのが嫌ですか?」
 起ち上がり始めた桃色の小さな飾りを、スティールの真っ赤な舌がちろちろと転がす。
「ぃぁっ、んんっ、あっ、あっ、」
 亮の身体がふるふると震えた。
「ガーネットに言われてますよね? ちゃんとおつとめを果たさなければ、シド=クライヴがどうなるか。あなたのせいで、彼はお尋ね者になってしまうんですよね?」
 亮が息を詰めて身体を硬くする。
 暴れていた手足から、抵抗の意志が消えていくのを、アイネと柳毅は感じ取っていた。
 スティールの口元に優しい微笑がのぼる。
「さぁ、今日はどうしてくれるんですか? 亮?」
 スティールが身体を離すと、亮はゆっくりと身を起こしていた。
 はだけられた襟元から、するりと浴衣がこぼれ落ち、亮の膝元に百合の花がわだかまる。
 わずかに落とされた照明の中、亮の白い肌が輝くように浮かび上がり、ベッドの脇で見下ろしていた柳毅はごくりと生唾を飲んでいた。
「――は…じめ、まして。なり、さか…とおる、です。今日は…、スティール、様を、精一杯、おもてなし…させて、くださぃ」
 立ち膝で自分の顔を見下ろすスティールに向かい、亮は眉根を寄せ切なげな表情で、やっとそう言う。
 見上げる潤んだ瞳が黒く輝き、亮の幼さを強調しているようであった。
『はは、そっか。なるほどね。ただの子供だと思ってたけど、違うんだ』
 その様子を見て、アイネが口元をゆるめる。
『おまえ、エロいことされるためだけの道具なんだ』
 何を言われているのかわからない亮は、不安そうに三人の顔を見回すしかない。
 自分はただ従順に、彼らの言うことを聞かなくてはならない。
 そうすれば、自分は帰る場所を失わない。
『な、なぁ、スティール。見てるだけとかなしだぜ?』
『わかってますよ。でもものには順番があります。私の後にあなたたち。最後までたっぷりとおもてなししてもらいましょう』
 ぺったりと崩した正座で座り込み、スティールを見上げる亮の頬に手を添えると、スティールはやんわりと指を滑らせる。
「そうですよね? 亮?」
「――? は、はい」
 スティールの言葉の前半部分がわからず、不安げに瞬きを繰り返す亮は、それでも肯定の返事をするほかない。
 しかしその返事に満足げに目を細めると、スティールは亮の身体をシーツの海に押し倒していた。






「ほら、亮。柳毅のものもちゃんとおしゃぶりしてあげてください」
「…は、ぃ――っ、んぁっ」
 目の前に突きつけられた柳毅のものに唇を寄せようとした瞬間、亮の背後を犯していたアイネがさらに深く突き立てる。
 柳毅に奉仕しようとしていた四つん這い状態の亮を、アイネは激しく責め立て始めていた。
 亮の身体はガクガクと揺すられ、柳毅のものを咥えるどころではない。
「――ぁっ、ゃぁっ、はっ、あっ」
『すご…、こいつン中、やばぃよ。僕のイェーラが揺すられて、今なら、何匹でも使役魔作れそう――』
 亮の細い腰にアイネの指が食い込み、音を立てるほど激しく腰を叩き付ける。
『おい、おまえだけ何楽しんでんだよ。ほら、亮。顔上げろ』
 柳毅はそんなアイネの様子に不機嫌そうに口を尖らせると、腰を上げさせられたままうつぶせた亮の髪に手を掛ける。
「ぃっ――」
 ぐっと乱暴に持ち上げると、顎に手を掛け、無抵抗の亮の口に己のものをねじ込んでいた。
「――っ、んっぅ」
『おいアイネ、あんま揺するな。噛まれたらどうすんだよ』
『HAI! YADA! GOMENNASAI!』
 アイネが亮の口まねをしておどけてみせる。
『っ――は…、おまえの言葉、ローカルすぎてわかんねーよ』
「ぃっ、ん、んんんっ、んぐぅっ――ぇぁっ、はっ、かはっ」
 何度も背後を大きく突かれ、喉の奥深くを貫かれた亮は、耐えきれず、生理的に強烈な嘔吐きに襲われていた。
 柳毅のものをくわえ込まされたまま、舌を突き出し、喉を痙攣させる。
『うぉっ、くぅっ、ィィ、出るっ』
 柳毅は巨体をぶるりと震わせると、亮の喉の奥へどくどくと熱い迸りを叩き付けていた。
 ゴブっと逆流する音がし、亮の口から大量の白濁液が滴り落ちる。
「がはっ――ごほっ、ぇぁっ…」
 亮に噛まれないようにと柳毅が引き抜くと、亮は激しく咳き込んで前屈みに倒れていた。
 咳き込みながら何度も嘔吐する。
 亮の口元や胸、そして辺りのシーツには柳毅の出した精液が白く滴り落ちている。
『きったねーなぁ。ちゃんとぜんぶ――っ、飲め…て――っ、やべ、ちょ、スティール、――な、中、出して、いんだよな? も、やば――』
 亮が身体を震わせて嘔吐く度、アイネのものは不規則に締め付けられ、ゲボの力で能力ごと揺すられる。
『壊さない程度にしなさいよ。アイネは酷いサディストですから、いつも受胎相手を壊してしまうでしょう?』
 スティールは一人ベッドのわきの椅子に座り、ワインを傾けながらその様子を楽しんでいるようであった。
 スティール自身はもう三十分も前に、何度か亮の中に放った後である。
『どうせゲボ相手じゃ、使役魔の蕃殖もできねーし、別に壊れたって構わねぇと思うけどな』
 うつぶせに喘ぐ亮の横顔を舐め、赤く色づいた胸の飾りを指の腹でぐりぐりと押しつぶしながら、柳毅が黄色い歯を見せて笑った。
「ぃぁっ、ぁっ、も、…るして――ださぃ、っ、はっ、あっ、ふああああっ!」
『ぃ――っ!!』
 亮が放つのと同時に、アイネのものが数度ひくつき、多量の白濁液を亮の内部に注ぎ込む。
 亮の身体はその感触に魚のように何度か跳ねると、ぐったりとベッドの上に倒れ込んでいた。
 アイネが亮の中から引き抜くと、どろりと血の混じった白い液体がこぼれ落ちる。
 スティールはグラスを持ったままそんな亮に近づくと、ベッドへ上がり、その身体を抱きかかえていた。
 そしてほぼ意識のない亮の口に、手にした葡萄色の液体を注ぎ込んでいく。
「――っ、こほっ、はっ」
 咳き込みながらうっすらと目を開けた亮に、スティールが柔らかに微笑んだ。
「亮の中には誰の分身が宿りましたかねぇ?」
 意味がわからず、荒い息でぼんやりとスティールの顔を見返す亮に、さらに言葉は続く。
「セックスをすれば何が出来るか、亮も知ってるでしょう?」
「――? な…んです、か?」
「おやおや、それも知らないほど子供でしたか。それじゃあ教えてあげなくては――」
 スティールが亮に対し何か始めたのを見て、アイネも柳毅もニヤニヤとそれを見守っている。
「今みたいな事をすれば、赤ちゃんができるんですよ?」
「…っ? ぇ、ぁ――、ォレ、男だし――」
「亮は私たちがどうしてゲボの皆さんから忌避されているか、知らないようですね。――私たちイェーラ種は、誰かのアルマに直接分身の種を植え付け、産み落とさせて使役魔にするんです。それが私たちの能力。相手が男だろうと女だろうと、動物だろうと関係ない。アルマを持つものであれば、何者にも種を植え付ける。まぁ、相手は優秀で美しいものに越したことはありませんが――」
 亮はスティールの言葉を、無言のままただ聞いている。
 この男の言っている意味が、まだ亮の中に染み込んでこないのだ。
「亮なら申し分ありませんよ。希少種であるゲボの力を宿した私たちの分身が手に入るなんて、すばらしいと思いませんか」
「…ど、ゆ――こと」
「受胎後三ヶ月で使役魔は生まれてきます。きっとあなたの生む使役魔ならリアルでも召還可能な力の強い者が――」
「ど…ゆ、こと? ね、何、? なに?」
 亮の様子が変わり始める。
 少しずつ、スティールの言う意味が、伝わり始めていた。
「亮のここから、私たちの赤ちゃんが、生まれてくるんですよ。三ヶ月後にね?」
 スティールの手が優しく亮の腹を撫でる。
 亮の瞳が恐怖で見開かれていた。
 荒かった呼吸が、さらに引きつったものに変わる。
「ああ、でもまだ確定じゃありませんよ。うまく亮のアルマに適合して受胎する確率は十五パーセント程度です。確実に種を植え付けるなら、もっともっとあなたの中に注いであげないと――」
 スティールが再び亮の足を抱え上げると、立ち上がりきった己の者を取り出し、亮の蕾にあてがう。
 亮の身体がびくんと強ばった。
「他のゲボの皆さんは、使役魔など生む気はないみたいなんですよ。でも、亮は違いますよね? ――亮は私のことを精一杯おもてなししてくれるのですから」
「――っ!! ひ…」
 恐怖に引きつった表情で、亮は本能的に身体をいざらせる。
 しかしスティールは亮の腰をぐいと引き寄せると、己のものを容赦なく突き立てていた。
「ぃぁっ、――嫌だっ、嫌あああああああっ!」
 必死に身体をつっぱらせ、逃れようとする亮を上から押さえつけると、スティールは顔に微笑を貼り付けたまま、ゆっくりと腰を動かし始める。
「可哀想にね。亮は男の子なのに、妊娠しちゃうんですよ?」
 泣きながらいやいやを繰り返す亮の耳元で、スティールが囁いた。
「嫌ぁっ、嫌だっ、シド、シ…ドぉっ! 助けて、シ…やあぁぁっ」
 萎えた手足で必死にシーツを掻く亮の様子に、スティールの興奮はさらに高められていく。
 ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立て、亮の中を擦り上げながら、白濁液に塗れた亮の身体に舌を這わせる。
「さぁ、亮。亮の中に、もっともっと種を植え付けましょうね」
「ひっ、ひゃぁっ、ぃやっ、たすけ――、」
 恐怖に怯える亮の中は今まで以上に蠢き、スティールを責め立てる。
 スティールはその感覚に笑みを強めると、亮を抱え上げ、さらに深く貫いていた。
「ぃぅっ!! ひ、ひ、いや、シ、シドぉっ、こわぃ、ょ、シ、こゎぃ、ょぉ、」
 泣きながら子供のように抵抗する亮を、スティールが何度も突き上げる。
「シドの、種が、良かった、ですか? 亮は、本当に、淫乱な、子ですねぇ」
「ゅぅして、も、とぉぅ、も、ゃだ、とぉう、にんしん、しちゃうの、やぁっ――っ、!!!」
 その瞬間、泣きじゃくる亮の中へ、スティールはたっぷりと欲望の迸りを注ぎ込んでいた。
 亮の身体がそれを感じ取るとびくんと固まる。
 そしてだらりと手足を投げ出したまま、ガクガクと震え始めた。
 その瞳は虚空を映し、魂の抜けた様相で見開かれたままだ。
「亮のおもてなしは最高だったと、ガーネットに報告しておきますからね」
 スティールはそんな亮の身体を繋がったまま抱き寄せると、優しく髪を撫でる。
 その光景を、アイネと柳毅は呆れたように見つめていた。







 寝室の鍵が開けられ、やっとノーヴィスが部屋に飛び込んだときには、既にスティールたちは部屋を出て行くところであった。
 途中、亮の悲鳴が聞こえ、居ても立っても居られず、何度も扉に体当たりをしてみたのだが、セブンスの作りはとても頑丈で、ノーヴィス如きの力ではどうにもならなかったのだ。
「亮さまっ!」
 悲鳴に近い声でそう呼ぶと、ベッドの上でぴくりともしない亮に駆け寄る。
「スティール様、いったい何をされたのですか!? 亮さまに何を――」
 亮の冷たい身体を抱き寄せながら、ノーヴィスが本人ですら信じられない形相で睨み付けていた。
「ああ、ちょっと冗談を言っただけですよ。身体にそんな負担はかけてないはずですし――心配はいりません」
「冗談――? そんなことで、こんな」
 ノーヴィスがまだ言い募ろうとするのを軽く受け流し、三人は部屋を出て行く。
 亮の身体は驚くほど冷たく、呼吸も感じ取れないほどに弱々しい。
 うっすらと開かれた目元は涙で赤く腫れ上がり、口元にも身体にも大量の白濁液が付着していた。
 どう考えても亮を責め立てたのがスティール一人でないことは明らかである。
「亮さま? 亮さま、お声を聞かせてください」
 あまりの様子にノーヴィスは心配になり、亮の頬を何度も擦り上げる。
 それでも返事をしない亮の身体をとりあえず温めようと、すぐに抱きかかえ、バスルームへと飛び込んでいた。
 シャワーで清める前に、すぐさまバスタブへ冷え切った亮の身体を沈める。
 お湯をかけ流しながら、亮の身体に付いた汚れを手のひらで擦り落としていく。
「亮さま――」
 ノーヴィスの声掛けに、亮の手が、ぴくんと動いた。
「ノ、ヴィス……?」
「!! はい、もう、大丈夫ですから。今日はもう、おわりですから」
 ようやく亮の瞳に自分が映され、ノーヴィスはほっとしたように言葉を続ける。
「痛いところはありますか? ご気分は?」
「――ノーヴィス、ォレ、どうしよう」
 吐息混じりに亮がそう呟いた。
「ォレ、どうしよう。ねぇ、どうしよう?」
「亮――さま?」
 亮の様子がおかしいことに気がつき、ノーヴィスが心配そうに聞き返す。
「どうされたのですか? スティール様に、何か――」
「ォレ、――妊娠しちゃったの? ねぇ、ォレ、スティール様の、種――ォレん中、ぃぱい、入れられて、ォレ、男なのに、ォレ、ォレ、も、どうすればいいか、ゎかんなぃょぉっ…」
 亮の瞳から、ぽろぽろと止めどなく涙がこぼれ落ちる。
 突然泣き出した亮に、ノーヴィスは慌ててその身体を抱き留めていた。
「ぅぇぇぇっ、ぇっ、ォレ、やだよぉ、っ、こ、こゎぃ、っ、ょぉっ、ぇっ、ノ、ヴィスぅ、ぇぇぇっ、」
「と、亮さまっ、だ、大丈夫ですよ? 泣かないでください、大丈夫です」
 ノーヴィスは帰り際、スティールの言った『冗談』とは何なのか、この時やっと意味がわかっていた。
 そのあまりの悪趣味さに、吐き気がしそうであった。
「亮さまはゲボですからね? ゲボは他のソムニア能力に対し抵抗力が強いので、いくらカラークラウンとはいえ、イェーラの力では、亮さまの身体に影響を与えることはできないんですよ?」
 泣きじゃくる亮の髪を撫でながら、ゆっくりと言って聞かせる。
 目覚めて二ヶ月。ソムニアの知識がほとんどない亮には、スティールの言葉は絶対の真実だったに違いない。
 部屋の外からも聞こえた亮の悲鳴を思い出し、ノーヴィスは身体が震えるほどの怒りを感じていた。
「ぇっ、ぇっ、ぅっ、」
「スティール様の言ったことは嘘です。亮さまをからかわれたんですよ。大丈夫。妊娠なんかしてません」
「ほ…んと? ォレ、すてぃ、る、様の、赤ちゃん、生まない? ひくっ」
「大丈夫です。心配なら、レオン先生に見てもらいますか? きっと笑われますよ?」
 敢えて明るくそう言うと、ノーヴィスは笑って見せた。
 それでやっと亮の身体から、震えが抜けていく。
 抱きかかえられたノーヴィスから身体を離すと、首に手を回したまま、亮がノーヴィスの顔をのぞき込む。
「ォレ、から、かわれた、だけ、なんだ――」
「そうですよ。もしイェーラの力が及ぶなら、彼らがセブンスに出入りを許されるわけありません」
 そう自信を持って言うノーヴィスの言葉に、亮は再び大きく表情を崩していた。
「ぅぇぇぇぇっ、ぇっ、ォレ、ほんとだと、おもて、ォレ、ぇっ、ぅぇっ、こ、ゎくて、ォレ、ぇっ、ぇっ、ぇぇぇっ、ぇぅっ、」
 しゃくり上げる亮を抱き寄せ、ノーヴィスは何度も何度も背をさする。
 声を掛けながら、酷く汚された亮の身体を洗い、ノーヴィスが亮をソファーに寝かす頃には、亮は泣き疲れてすっかり眠りこけていた。
 やっと今日のゲストから解放された亮の髪を乾かしながら、ノーヴィスが優しく声を掛ける。
「明日は採血でお休みですからね? ゆっくり、お休みになってください」
 夜九時を回り、亮はまだ夕食すらとれていない。
 しかし今の亮を起こすことなど、ノーヴィスにはできそうになかった。
 やはりゲスト四本はスケジュール的にも無理がある。
 疲れ切った様子の亮の顔を見ながら、ノーヴィスは深く長いため息をついていた。