■ 2-32 ■



「ドクター・クルース。どういうつもりです? もうこれ以上インセラの検査室を押さえておけませんよ。午後二時からは武力局の定期測定で、空き室がなくなってしまいます。先ほどから問診票の提出も始まってますし、今すぐにでも始めないと、本日中の検査はできなくなくなります」
「――わかってるよ」
 そう返事を返してはみたが、レオンは次の言葉が出てこない。
 いらだちを隠せない様子で腕を組み、人差し指でせわしなく肘へのノックを繰り返す。
「いったいどういうことなんですか? 検査装置に異常はありませんし、技師達も不審がっています。理由をおっしゃってください。理由次第では武力局の定期測定を一時間ほどならずらしてもらえるかもしれませんし――」
 医療棟の事務を担当する中年男が、ずんぐりとした身体に不似合いなほど円らな瞳でレオンを見上げた。
「だから、それは言えないといったでしょう!? あー、いや、ごめん、キツイ言い方になってしまって。――とにかくだね、今の段階では何も話せないんだよ」
「はぁ〜・・・、参ったなぁ――」
 事務員はがりがりと鼻の頭を掻くと、もううんざりだとでも言いたげに首を横に振ってみせる。
 だがため息をつきたいのはレオンも同じだ。
 「亮の名が奪われているかもしれないから、ダガーツを呼びに行っているんだよ」などとは口が裂けても言えないし、今日の検査がキャンセルされればスティールに何か感づかれてしまう可能性もある。
 この後定期検査が入っている運びで、機械の不調で全面禁止になったとも言えない。
 そんなわけで、医療棟インセラ直結のシールドルーム前で、二人はもう三十分以上もこうして先の進まない話を繰り返すことになっていた。
 シュラがダガーツを探しに行くと出て行ってから二時間が経過している。
 今あの男が現実にいるのかセラを飛び回っているのかわからないが、どちらにせよアルマの鑑定ができるほどのダガーツを見つけてくることなど不可能なのではと、改めて思う。
 だいたいそんな力を持つダガーツはヤザタスに所属しているだろうし、あのヤザタスを小一時間で引っ張ってくるなど、どう考えても無理だろうと今さらながらにシュラに突っ込んでやりたい気持ちでいっぱいだ。
「君たちには申し訳ないけど、もう少しだけ。あと三十分。・・・、いや、二十分でもいい。機械の調子がおかしいとか何とか言って、とにかく部屋を確保しといて」
「十分です。理由をおっしゃっていただけない限り、それ以上は待てません。十分後にはインセラに定期検査の人たちを入れますからね」
「じゅっぷん!? ええええ!? 頼む、じゃあ、十五分。今度事務室にケーキ差し入れるから」
「ケーキですかぁ? ・・・じゃあ、十二分」
「十四分五十秒」
「十四分」
「十三分五十秒」
「十三分」
「十九分五十秒!」
「十九分」
「よし! 十九分、もらった!」
 言った途端にもうこれ以上先は喋らせないとばかり、レオンは事務員の肩を叩き、脱兎の如き勢いで病室の方へと駆け出していく。
「っ!!!! ちょ、ドクター! あれ? なんで?」
 よくわからないうちに十九分の時間をもぎ取られた事務員は頭をひねり、眉間に酷い縦皺を刻んだままレオンを見送っていた。

―― 一時五十分か。ホントにギリギリだな。
 走りながら腕時計を確認し、レオンは暗澹たる気持ちになる。
 裁判での立証能力のある正確なアルマの測定・撮影は、セラ内でしか行えない。
 もしシュラが間に合わなければ亮のアルマがセラ入りする貴重なチャンスは、ただの使い魔の透視検査を行うだけで消え去ってしまう。これではスティールを喜ばせる為だけにしているようなものだ。
 そして亮がゲボである限り、この先セラでの医療行為はほぼ為されることはないだろう。
 ゲボを極力セラ入りさせないことが、今のセブンスの絶対的なやり方だからだ。
「頼むよ、間に合ってくれよ……」
 先ほど部屋を出たときの亮の様子が頭をよぎり、レオンの表情が苦悶にゆがむ。
――亮くん・・・。 
 あのままでは亮が壊れてしまうのも時間の問題だ。
 亮の待つ病室のドアを開けると、今度こそ完全にベッドの上で亮を犯し、腰を振っているスティールの姿が目に飛び込んでくる。
 まくり上げられた浴衣の裾から細い足が伸び、スティールの肩の上に抱え上げられ揺れている。両手は頭上の鉄柵にナースコールのコードで緩く縛り付けられていた。
 これは明らかにスティールの悪ふざけだろう。
 はだけられた胸元から片側だけ覗く桜の飾りが艶やかに光を反射し、許し難いほどの扇情感を誘う。
 どこをとっても完成された春画の風情で、レオンは一度目を閉じ息をついて己の中をリセットさせていた。
 そして、再び前面で展開されている絵を見据える。
 恥ずかしげもなく繰り返される挿入音に、亮は切れ切れの息を吐きながら、それでも何とか反応を返しているようだ。
 スティールはレオンが入ってきたことに気がつくと、艶然と笑いを浮かべ身をかがめていた。
 スティールの真っ赤な舌が伸ばされる。
 それは片側だけ覗いた亮の小さな胸の尖りをからめ取り、続いて先端だけを弾くように転がし始める。
「っぁ、ぁっ、…っ、」
 ぼんやりとした瞳で、自分の乳首を這い回るスティールの舌先を見つめ、亮は何度も身体をびくつかせる。
「スティール、いい加減にしてください。ここは私室でもホテルでもない。たとえ与食行為だとしても控えていただきたい!」
 恐ろしいほど冷たい声で、レオンはそう告げていた。
「ああ、すみません。あまりに待ち時間が長いので、亮が退屈してしまって。私のモノをおねだりして聞かないものですからついつい――。甘やかしすぎはいけませんね?」
 言いながら、ちゅっと赤く色づいた飾りを吸い上げる。
「ほら、亮。ドクターに怒られてしまいますから、もういってしまいなさい。――ドクターに、亮がたくさんミルクを出すところを見てもらいましょうね」
「っ、はぃ、りゅ、さま…、っ、ぁっ」
 緩んだ帯を上にずり上げられ、亮は浴衣を更にまくり上げられていた。
 スティールが背後に置かれていた毛布を丸め、亮の腰の下に潜り込ませると、亮の腰が高く弧を描いて掲げられる。
 幼い亮自身が、病室の真ん中にさらけ出されていた。
 少年のそれはすでに痛々しいほど赤く腫れ上がり、天を仰いで淫靡な果汁で濡れそぼっている。
「――、どくたぁ…、とぉぅ、の、見て、くらさい。とぉぅ、えっちなみるく、いぱい、…でちゃう、の、みてぇ…」
「――っ!!!」
 レオンは苦しげに目を伏せると、奥歯を強くかみしめた。
「・・・スティール、これ以上の与食行為は医師権限でストップを」
「私はまだ亮の中に出していません。しばらくは仕事でセブンスに行けないものですから、今我がイェーラを与えてあげなくては亮の身体がもたない。――大丈夫、すぐに終わらせますよ」
 受胎主という立場を出されてしまえば、途端にレオンの権威は弱くなってしまう。
 肉体の栄養補給は点滴でどうにか維持できたとしても、アルマ内の問題はそうはいかない。
 イェーラの受胎中の行為はアルマへのエネルギー補給であると同時に、生み付けられた使い魔への『一気に成長しないように』という抑制指令をも担っている。
 もしこのままスティールが亮を放置してしまえば、使い魔は一気に亮のアルマを吸い尽くし、一月もかからず不完全なままながら亮の中から這い出てくるだろう。
 そしてその瞬間が、亮の死を意味することになる。
 スティールの微笑みに、ふとレオンにはどす黒い瘴気がまとわりついているのが見えた気がした。
 それはまるでハエの大群のような禍々しさで、レオンの肌は粟を吹く。
 レオンが黙り込んだのを良しとすると、スティールは膝立ちになり、見せつけるように激しく亮の細い腰を突き上げ始めていた。
 ギシギシと病院用の小さなベッドが悲鳴を上げ出す。
「っ、亮、今度は、一緒に……いきましょうか」
「ぁっ、っ、いっしょ、…、っ、ぁっ、りゅな、さ…と、いしょぉ…」
 身体をナースコールで上に引っ張られ、腰を大きく上げさせられた不安定な体勢で、亮は突き上げられる度恥ずかしいまでの嬌声を上げる。
 しかしそれはレオンにも、部屋の隅で震えながらこの状況を見つめるノーヴィスにも、必死に助けを求める泣き声にしか聞こえない。
「ひっ、ひぅっ、ぃっ、りゅ、あっ、」
「亮、さぁ、お食事をあげましょうねぇ――」
 数え切れない突き上げの後、スティールの腰が角度をつけ、鋭角に亮の内壁を擦り上げていた。
 ズクリ――と肉の擦れる卑猥な音が鳴る。
「――っ、く…、」
 スティールの目が恍惚に揺らぎ、ビクンビクンと引き攣るように何度か腰が突き出された。
 亮の中で喘ぐように膨れあがったスティールの先端から、欲望の白い体液が塊となって、脈打ちながら何度も何度も亮の中へと吹き上がる。
「は…、ぁぉぉぉっ、」
 スティールが奇妙な声を上げ、射精の快感に恍惚と宙を仰ぐ。
 肉体だけの放出でなく、イェーラはそのアルマにおいても同時に精を発射しているのだ。
 二重の快楽に大量の精を吐き出しながら、スティールはビクンビクンと小刻みに腰を動かし続けた。
「っ、ふぁっ、ぁっ、ひぅぅぅぅっ」
 亮の充血しきった前立腺の辺りを、スティールのぬめりを帯びた先端が痙攣しつつ不規則に擦り上げる。そのイェーラ独特の淫猥な動きと、注ぎ込まれるたっぷりとした熱い欲望に、亮は子犬のような鳴き声を上げて、今日何度目かの絶頂を強要される。
「ひぅんっ!!!!」
 高く抱え上げられた腰の上で、可愛らしく立ち上がった幼い性器から、ほとんど色の付いていない淡いカルピスがとろとろと流れ落ちていく。
 窓から差し込む真昼の陽光の中、それは痛々しく、また赤裸々にレオンたちの前に晒されていた。
「――おいしかったですか? ちゃんとごあいさつなさい、亮」
 半眼で弱々しく呼吸を繰り返す亮の頬を撫でながら、スティールが亮の中からその身を引き抜く。
 その刺激に一度びくんと身体を喘がせると、亮はかすれた声でこう言った。
「――ごちそ、さまれした」
「――っ! どきなさい! 早くベッドから降りて!!」
 弾かれたようにレオンはベッドへ駆け寄ると、亮の腕を解き、腰の下に敷かれた毛布を取り払ってやる。
 それと同時に、どろりと亮の後腔から、白濁した大量の体液が流れ出していた。
 長時間挿入されっぱなしだった柔らかな窄まりは、スティールのサイズを追い求めるように微かに口を開け、だらしなく雫を滴らせ続けている。
「おやおや、この子は本当にはしたない。――すみません、ドクター。こぼさず全部食べるように、後でちゃんと言って聞かせなくては」
 ベッドをおり身支度を調えたスティールが、その様子に苦笑を浮かべてみせた。
 レオンはあらん限りの力でイェーラのトップを睨み付け、完全に眠りに落ちている亮の身体を、病室に置かれたタオルやアルコールで清浄にしてやる。
「・・・。そろそろ時間ですから。シールドルームに向かいます」
――シュラは、戻ってきているだろうか。
 可能性はゼロに近くとも、今はあの男に賭けるしかない。
 レオンは一刻も早くこの部屋から亮を連れ出したい気持ちに駆られていた。