■ 4-27 ■




 焦りばかりが先に立つ。
 なぜ、身体は自由に動かないのか。
 なぜ、自分は唯々諾々と金原の言うとおり、この透き通った檻の中へ足を踏み入れてしまうのか。
 なぜ、自分はベッドに腰を下ろした金原の顔を、ぼんやりと眺めることしかできないのか。
「いい子だ、成坂。ここへ来なさい」
 金原は自分の膝をポンポンと叩いてみせる。
 亮の身体はその意図をすぐさま察し、指示された膝の上へ身体を預けていた。
 体育教師は邪魔になるホイッスルを首からはずすと、ベッド脇へ放り投げる。
 汗臭い筋肉質の体温が亮を包み込み、気持ち悪さで叫びだしたい衝動に駆られる。だが、亮の口は閉ざされたままであり、表情も全く動くことがない。
「成坂……。先生な、ずっとおまえが東雲のドールにされたらなって考えていたんだよ……」
 金原の野太い腕が後ろから亮を抱きしめ、えらの張った顎が亮の柔らかな頬にすり寄せられた。
「だから、今日は本当に嬉しい」
(――っ、放せ、さわんなっ……)
「おまえ、プールの授業、いっつも休むじゃないか。先生、夏が来るのをすっごく楽しみにしてたんだぞ? 身体が弱いって、本当なのか? おまえ、運動神経はいいのに……」
 金原の指先が、シャツの上から亮の身体の線を確かめるように、ゆっくりと撫でていく。
(ぃ……、ゃだ……、っ、やっ)
 亮の全身が総毛立った。
「おまえが本気出して体育してないの、先生ちゃあんとわかってんだぞ? こないだのサッカーだって、力抜いてただろ。なんでだ? 一生懸命やるのがかっこ悪いか。それとも先生の授業が嫌なのか?」
 金原の手は器用に亮のベルトをはずし、ズボンのチャックをおろしていく。
「だったら先生、ショックだなぁ……」
(くそっ、変態教師……、触るな、触るなあああっ!)
 内面の亮は荒くれまくっているにもかかわらず、表の亮の顔は表情もなく、体育教師のなすがまま――。
(なんで……、オレ、動けない!? これ、なんなんだよ……っ)
 金原の骨張った指先がシャツの上から亮の胸の飾りをカリカリと引っ掻く。
(ん……っ、ゃ……)
 意志に反して亮の身体はびくんと硬直し、無表情のまま喘いでしまう。
「すまんすまん、苦しかったな。声、出しなさい、成坂。おとなしくしていれば、普通にしてて構わないよ。成坂の反応を、先生に見せて欲しいんだ。まったく……東雲のアンズーツは完璧すぎて、指示以外のことが封じられてしまうのは難点なんだよ。なんて言っても、今の成坂じゃ理解はできないか。……ふふ……、思考まで縛られてしまうなんて、本当にドール……人形そのものだ」
(……アン……ズーツ? 東雲……先輩、が、アンズーツ種……)
「っ、ぁっ、……や……、さゎん、な……」
 亮の唇を割り、拒絶の声が零れていた。
 同時にその表情に確かな嫌悪感が滲み出す。
 しかし引っ掻かれるたび、亮の胸先はツンと尖りを見せ、シャツの上からでもくっきりとその存在を主張し始めていた。
「……っは……ぁ、成坂、普段はあんなに無愛想なのに、……先生にこんなことされて乳首コリコリさせて……」
 金原は亮の身体を横抱きにすると、シャツの上から小さな胸の尖りへ吸い付く。
 厚い舌が感触を楽しむように、何度も何度も小さな隆起をこすり上げ転がし、大量の唾液がジュルジュルとシャツの色を変えていく。
 シャツの上から与えられる刺激はもどかしくも淫靡で、体育教師の与える舌使いに、亮は意に反し何度も身体をびくつかせてしまう。
「……んっ、やだ、やめ……ろっ、ゃぁ……」
 頭の中でいくら悪態を吐き暴れまくっても、亮の身体は普段の授業中と同じく、控えめな発言とささやかな抵抗しか為してくれない。
「はぁ……はぁ……、成坂……、嫌じゃ、ないだろ? 成坂も、先生のこと、ずっと好きだったんだよな? 先生にずっと悪戯されたかったんだろう? ほら、言ってみなさい、成坂。怒らないから……」
 唾液でべったりと肌に張り付いた左胸のシャツには、くっきりと桃色の尖りが透けていた。
 金原はそれを愛しそうにくいっとつまみ上げると、クリクリと捻る。
 亮の身体がひくんと跳ねた。
「ひぅっ。……、ぁ、オレ、き……金原、センセ、のこと、好きで……」
(なに言出すんだよ、バカっ、オレ、やめろっ!)
「……、ちが……、ォレ、好き、じゃな……、こんなの……、や……」
「違うだろう、成坂。おまえは先生のことが好きなんだ!」
 ぎゅうっとつねられ、「ヒウッ!」と痛みに亮は鳴いた。
 赤く色づいた乳首を今度は愛でるように、ゆるゆると親指でこね回す。
「先生のためなら何でもできる。成坂は、先生にいやらしい悪戯をされたくてされたくて溜まらない、悪い生徒だ。授業中おまえは先生に悪戯されることばかり考えて、身体が熱くなってしまっていただろう? プールの見学中は先生を見ながら、オナニーしてたことも、ちゃあんと先生、知ってるんだぞ」
「……そんなこと……、してな……」
「成坂っ!」
 体育教師らしい一喝に、亮の身体が硬直する。
「……先生も授業の後は、お前のことを考えながら職員トイレで何度もしてたんだ。恥ずかしいことじゃない……」
 亮は怖気を立たせた。
 きっとこいつが今言ったことは、本当のことなのだ。こいつは授業後、亮をおかずに気色の悪い行為に興じていたに違いない。
 それでも亮の身体は小さな抵抗を示すのみで、いっかな亮の言うことを聞こうとはしなかった。
 それどころかついに――
「オレ……、金原先生に……、いた……ずら……された……くて……、オナニ……しま、した……」
 熱い吐息を吐きながら、嫌悪と恐怖と快楽に潤んだ瞳で、そう担当教諭に告白してしまう。
 ゴクリ……と、金原ののど仏が上下した。
「いつも誰とも親しくしないで……、そんなことばかり考えてたのか……。だから短パンから伸びたこの足で、先生のことをずっと誘惑していたんだな」
 金原の手が亮のズボンを脱がせ、現れたしなやかな足をなで回す。
 何度もこの足をなめ回す想像をし、授業中抑えていた欲望を、職員トイレで爆発させていた日のことを思い出す。
「この足で……この足で……」
 亮をベッドの上へ押さえつけると、投げ出された足をじっとりと舐めあげていく。
 亮の丸い膝小僧にしつこく舌を這わせながら、金原の手が亮の下着へとかかっていた。
 亮の身体がびくりと強張った。
「気持ちよくなろうな、成坂……」
 微かに震えた無骨な指が、亮の下着をゆっくりと引き下ろしていく。
(っ!! 嫌だ……、いやだ……、いやだ、いやだ、っ、)
「いやだいやだいやだいやだああああっ!!」
 そう亮の口から声が迸った。と、同時に。
 亮の身体の稜線が、ふわりとぶれていた。
 嫌悪に身をよじり叫んだ亮の姿が、徐々に薄く溶けていく。
「っ、成坂!? おい、なんで……、待て、どうして!?」
 自分にむしゃぶりついていた金原が、驚いたように目を見開き、必死に亮の身体をつなぎ止めようとするのが見えた。
 しかしそれは無駄な行為で――。
「っ!!」
 次の瞬間、亮の身体は暗闇の中跳ね起きていた。
 エアコンの風に冷え切った肌は泡立ち、寒さのためなのか恐怖のためなのか、ガクガクと震え続けている。
 己の肩を抱き亮はその場で硬く、石のようにうずくまった。
「や……、ぃやだ……、っ、……」
 何度も拒否の言葉を口にするが、それに返ってくる声はない。そろりと辺りを覗き見れば、そこは柔らかな常夜灯に満たされた亮の自室であった。
 どうやらセラから抜け出すことには成功したらしい。だが――

 息が苦しい。
 胸が痛い。
 寒くて寒くて凍えそうだ――。

(……ノック、バック……)
 その単語が脳内をかすめた。
 早く薬を飲まなくては――。
 しかし亮は身動きすら取れない。
 金原の荒い息や、ねちっこい舌の動き、気味の悪い要求――、それに逆らえず、されるままになるしかなかった自分の身体。自分が自分でないような、何者かに思考も身体も操られる不気味な初めての感覚に、亮の呼吸が上がっていく。
「亮さん。亮さんは私のことが好きなんでしょう?」
 そう声が聞こえた。聞き覚えのあるその声に顔を上げれば、ベッドの下から一人の男が、ずるり……ずるり……と、まるで蛇のようににじり上がってくるのが見える。
「っひ……」
 恐怖に亮の顔が強張った。
「私にこうして悪戯されたかったんですよね?」 それはいつか聞いたセリフ。
 亮が初めて身体を開かれたとき、何度も囁かれた言葉。
「た……きざ……」
 亮はいやいやを繰り返し、萎えた四肢で必死にベッドの上へとずり上がる。
「トール。悪い子にはしつけが必要なのだよ?」
 背中に熱い体温を感じ振り向けばそこには、
「おじさま……」
 ヴァイオレットが背後から抱きしめるように、亮の身体を堰き止めていた。
 瞬間、右足を滝沢の手が捕らえる。
「ひ……っ!」
「亮さん、今夜もまた楽しいお勉強の時間ですよ……」
 滝沢の目が細められ、薄い唇が耳元まで左右にぐいっと開かれた。
 ヴァイオレットの手がシャツの内側に潜り込み、滝沢の手が下着の上から亮の幼いモノをゆるゆると弄り始める。
「ぃゃ……、ゃ……、ぁっ、ゃ……」
 胸が痛い。
「トールのここはどうしてこんなに硬くなってるんだね?」
 頬を舐められながら、ツンと尖った胸の飾りを捻り上げられる。
「ひぅっ……」
 身体が熱い。
「なんて破廉恥な子だ……。悪戯されたくて毎晩ひとりで弄っているから、こんな風にどこもかしこもすぐに硬くしてしまうんですよ」
 滝沢は下着の上からゆっくりと亮のモノを飲み込んでいく。
 萎えた足を両手で固定され、赤ん坊のような恥ずかしい格好で亮はぶるぶると快感に震えた。
 強烈な嫌悪と容赦ない快楽とが同時に襲い、心と身体が引き裂かれていく。
「ひ、ぃぁ、ぁ、ぁ、」
 息が、苦しい。
「……すけ、シ……」
「シド・クライヴは来ませんよ。なぜなら彼は今度の仕事で死んでしまうから」
「っ!?」
「シド・クライヴは所詮罪人。IICRの厄介ごとを押しつけられて、この仕事で無惨に死んでしまうと決まっているのだよ、トール」
「ぅそ、だ……」
「ひひひ、嘘ではありません。だってほら、今もあの男は現れない。亮さんは独りぼっちで、私たちにオモテナシし続けるしかないんですよ……」
 ガリリと滝沢の歯が、亮の先端を扱きあげる。
「ぃぅっ!!」
 ヴァイオレットに身体を預けたまま、亮はびくんと反り返った。
「トール、そんなに気持ちよがって……。大丈夫。永遠に私たちがおまえを愛してあげるから――」
 ヴァイオレットが亮の唇を貪り吸い、両胸の飾りを執拗に転がし続ける。
「ん……、ぅ、」
 ぞくぞくと背が粟立ち、亮はその快楽に腰を揺らしてしまう。
「そう。永遠に――」
「永遠に――」
 ――永遠に。

「成坂っ!」

 久我は必死に亮を揺り起こしていた。
 酷い汗と苦悶の表情。
 亮がセラから帰還してほんの2、3分の間のことだ。
 隣のベッドで亮の様子を注視していた久我は、亮がセラから戻ったらしいことはすぐに気がついていた。
 もう少し時間がかかると思っていただけに、亮の早めの帰還は意外であり、どんな様子だったか今聞くべきか、それとも様子を見つつ明日の朝にすべきか少しの間逡巡してしまう。
 だが――そうこうする内に、亮の様子がおかしくなってきたのだ。
 戻ってすぐ身体を起こした亮は、その後再び倒れ込んでしまう。
 二度寝かよ――。と不服げにベッドへ近づいた久我は、その異変に顔色を無くしていた。
 亮の顔色は紙のように白く、呼吸が荒く――そして何より頬に手を当ててみれば、その体温は異常な程熱い。
 汗に濡れた唇から、幾度となく拒絶を意味する言葉が漏れ、するすると大粒の涙が閉じられたまぶたから溢れてくる。
「な……、何があったんだよ。おい、成坂! おい!」
 揺すりながら亮の身体に視線を走らせるが、大きな怪我はしていないようである。
 それでもこの状態は異常だ。
「成坂っ、成坂、おい! しっかりしろって!」
 久我はベッドに乗り上げ亮を抱きかかえるように身体を起こしてやる。
 すると――
「っ……く……が……?」
 ようやくその大きな黒い瞳が薄く開かれた。
「お、おう。おまえ、大丈夫か? 管理人のおっさん呼んで来るか?」
 その言葉が届いているのかどうなのか――。ぼんやりとした様子の亮は萎えた身体を身じろぎさせ、机の引き出しに手を伸ばしていた。
「く……すり……」
「薬、あんのか? ちょっと待ってろ」
 久我は亮を静かにベッドへ寝かせると、すぐに引き出しを片っ端から開け、中から小さな薬入れの缶を取りだしていた。
「これか? 何錠だ。一錠でいいのか?」
「……今日、は、……、二つ……」
 荒い呼吸でどうにか応えた亮に駆寄ると、久我は手にした二錠の白い粒を亮の口へ入れていた。「水、いるか?」
 しかし亮はふるふると首を振ると、久我の手を振り払いベッドから足をおろす。
「お、おい、成坂、寝てろって。水くらい持ってきてやるから……」
「……、ひ……、とりに、して……。も、いい……」
「無茶言うなよ。いくらなんでもこんな状態のおまえ放っておけるわけ」
 亮は久我の言葉など聞こえないかのように立ち上がると、ふらふらと、バスルームの方へ歩んでいく。
「おい、成坂! 汗かいて気持ち悪いのはわかるが、熱下がってからじゃねーと、」
 久我は溜まりかねたように亮の腕をつかんでいた。
 おぼつかない足取りの亮はそれだけで大きくバランスを崩し、フローリングの床に倒れ込む。
「ぅおっ!」
 慌ててその身体を抱き留めた久我は、腕の中のルームメートに息を詰めていた。
 汗で乱れた前髪の下から覗く黒い瞳は霞が掛かったように煙り、薄く開かれた唇は熱のためか、しっとりと紅い。
 長いまつげの影が、常夜灯の明かりにふるふると揺れていた。
「……、くが……、ぉね、が……、ひとり、して……、おねが、ぃ……」
 弱々しくも切羽詰まった声で亮は何度も久我に懇願した。
 しかしそうすればするほど、久我はそうできなくなる。
 普段ぶっきらぼうな対応しか知らないこのクラスメートが、こんな風に涙を溜めて自分に懇願するなど、想像したこともなかった。
 ごくり、と、久我ののど仏が動く。
 しかし煩悩を振り払うように久我はぶんぶんと首を振っていた。
「そんなこと……、できるわけ、ねぇだろ。まずはベッドに戻って身体を休めねぇと――」
 そう言って亮を抱え上げようと身体を引き寄せた。
 と――。
「っふぁ……」
 びくんと亮の身体が強ばり、甘い声がその唇から漏れる。
 Tシャツ短パンの格好をした亮を引き寄せた際、久我の手がその内腿をすわりと撫でていたのだ。
 それだけの刺激に、亮は耐えきれず身体を震わせる。
「っ!? ぉゎっ、わりぃ、どっか、触ったか」
 荒い呼吸で何度もイヤイヤをし、亮は久我の手を逃れようと必死に身体をつっぱねる。
「こら、ちょ、暴れるな。ちょっと抱えるだけだから――」
 熱のためか暴れようとする亮の身体を押さえつけ、ばたばたともがく足の上に自らの足を潜り込ませた久我は、その感触にぞくりと背筋を粟立たせた。
「……おま……、これ、すごいことに……なってんだけど……」
 ゆるいサッカー生地の短パンに隠された亮のそこは、痛々しいほどに立ち上がってしまっていたのだ。
 久我の心臓は破裂しそうに胸を叩き始める。
「ちが……、ぉれ、も、ぃぃ、も、ひとりで……」
 頬を朱に染め亮は必死に首を振り、必死に久我の下から抜け出ようとする。大きな瞳から溜まりかねたように、ほろほろと大粒の涙がこぼれ始めていた。
「一人でって、そんな身体で風呂場ですんのか!? ムチャクチャだぞ」
 どうしてこんな状況になっているのか、久我は混乱した頭で必死に考える。
(セラん中で計画通りエロイ連中に捕まったってことか? それにしても、これは行き過ぎっていうか……。それともさっきの薬? 変わった形の錠剤だったが、あれ、本当に熱冷ましの薬か? ……とにかく、これは、俺の責任らしいってことは確かなワケで……)
 もがく亮の力は次第に弱まり、久我の下で何かを堪えるように、その細い指の背をぎゅっと噛んで震えている。
「成坂、噛んじゃダメだ。ほら、放して――」
 亮の手をつかみ優しく引きはがしながら、久我はゆるゆると亮の短パンの上から、それをこすり上げていた。
 びくんと亮の身体が反り返る。
「ん、ふぁっ、ゃ、ォレ、ひ、とり……で……」
「いいから任せろって。同じ男だ。辛いのはわかる」
「ゃ、ぁ、だめ、だ……、くが……、だ、め……」
「男同士で扱きっこなんて、けっこうみんなやるもんだぜ? エロビ見てそのあとオナヌー大会とかさ」
 そんな経験久我にはなかったが、口から出任せにぽんぽんと言葉が飛び出してくる。
「フツーだよ、フツー。気にするな」
 その言葉に効力があったのか、それとも亮が限界だったのか――。
 次第に亮は抵抗することをやめ、久我にされるまま、熱い吐息を吐くのみになっていた。
 自分の下に組み敷かれ、潤んだ瞳で見上げてくる亮の様子に、久我は次第に自分の呼吸も熱く上がってくるのを感じていた。
「成坂……」
 頬に唇を寄せながら、Tシャツをたくし上げる。
 中に指を滑り込ませるが――
「・・・・・・。そっか。そうだよ……な」
 いつもと違って久我の大好きな大きな胸はない。
 しかし――
「ん、ぁっ……、」
 久我の指先が小さく尖った胸の先に触れると、亮の身体は敏感に跳ね上がる。
「ここ、気持いいか?」
 女の子より随分と小振りなそこは、女の子以上に感度はいいようだった。
 すっかり立ち上がってしまったそこをくりくりとつまみ上げ、久我はもう片方の桜色に舌を這わせる。
 女でもこんなキレイな色してねーぞ――と、久我は心の中で賛辞を送りながら、ちゅっとそれを吸い上げた。
「ふぁっ……」
(やべ……、すげ、興奮する……)
「ぁ、ぁ、く……がぁ……」
「なんだ? 成坂」
 こりこりと指の腹で転がしながら、亮の口元に耳を寄せる。
「……、き……ち、ぃぃ……よぉ」
 再びコクリと久我の喉が鳴る。
 脳が麻痺してしまったかのように、何も考えられなくなる。
 ただ、亮を――成坂を――、自分で満たしたい。
「成坂……、」
 薄く開いた誘うような唇に、久我はゆっくりと顔を落としていき――ついに唇を重ねていた。
 甘く柔らかなそれに舌を差し入れると、待っていたかのように亮の小さな舌がそれに応じ、からみついてくる。
 ねだるように吸い上げられるその動きと甘い唾液に、久我は陶然と酔い、何度も角度を変え深く深く口づける。その度に亮は涙を流し、苦しそうに喘いだ。
「ん……、なり、さか……、やばい、俺……、止まんねぇ……」
 久我の手が亮の腰へ伸び、一気に短パンと下着をずり下げていた。
 視線をそこへ落とすと、思わず目を見開く。
「……生えて……ねぇ……」
 亮のそこはすべすべと白く、いっぱいに勃ち上がった幼いそれは、淡く先端の桃色が見えてはいるが、まだまだ子供のそれである。
 亮の容姿から想像はついていたのたが、実際目の当たりにすると、犯罪を冒しているような罪悪感に久我は襲われてしまう。
 だが同時に――背徳感から来る欲情で、身体中の血が熱く沸騰するのも事実なわけで。
「み……るな……、見ちゃ……、ゃだ……」
 身をよじり久我の視線から逃れようとする亮を押さえつけ、久我は亮の幼いそれをゆるゆると愛撫し始めていた。
「ぁ、ぁ、く……が……」
 すっかり濡れそぼったそれは、くちゅくちゅと音を立て、久我の大きな手に扱かれていく。
「悪りぃ。こっち、辛かったよな。こんなに濡れちまって……。先に抜いといてやればよかったな」
 久我の顔が近づけられ、亮の幼いモノを飲み込んでいく。
「ふゎ……、ら、め……、く……」
 ぶるりと亮の身体が震え、自分のモノを口に含んだ久我の頭に手を伸ばす。
 しかし久我はそれを軽くいなすと、薄く覗いた先端をまるでキャンディーでも舐めるように舌先で転がしていた。
 心得たようなその動きに、自然と亮の腰は揺れてしまう。
「ひぁ……っ、ぁ、ぁ、ぁ、ぃ……」
(甘くてツヤツヤで……なんつーか……フルーツみてぇ)
 男のモノを咥えるだなどと、考えるのもおぞましいと思っていた久我だったが、亮のそれを見た時、なぜか迷いもなく口に含んでいた。
(こんなん反則だろ……。これじゃまるで俺がホモみてぇじゃん……)
 可愛らしいふたつの袋を指先で転がしながら、先端を強く吸い上げてやると、
「ひゃんっ!」
 亮は子犬のように鳴いてついに甘いミルクを久我の口中に放っていた。
 ぴくぴくと幼いそれが久我の口中で跳ね、何度も淡い白濁を吹き上げる。
 久我は自分でも不思議なほど冷静にそれを受け止め、舌を鳴らして飲み下していった。
 喉の奥に不思議な甘みが残り、興奮で目の前が揺れる。
 成坂のを飲んだ――。
(俺、成坂のセーエキ飲んだのか……)
 嫌悪すべきはずの行為が、劣情と興奮しか生まない。
 ちゅるりと音を立て亮のそれを口中から解放すると、幼いそれは力尽きたかのように頭を垂れている。あまりの愛おしさに笑みがこぼれる。
 ふと、その横に、紅い小さな痣があるのを久我は目に留めていた。
 亮の肌が白くあるがゆえ、その痕は常夜灯の薄明かりの下でも克明に存在を主張している。
(これは……キス、マーク……か?)
 内腿の、亮の局部のすぐ横――。
 まるでこれは自分のものだとでも言わんばかりの位置に、それははっきりと刻まれていた。
 よく見ればぐったりと目を閉じた亮の胸の際にも。首筋にも。へその隣にも。二の腕の内側にも。脇腹にも。至る所にその痕がある。
(っ、これ……、さっきセラでつけられたのか!? 成坂の体中にキスしまくってエロイ事しまくって)
 自分の最初の計画だったということも忘れ、久我の頭に怒りの血潮が満ちてくる。
 もちろん、これをつけたのはセラでの金原ではなく――昼間、妖精に説教をかましたフック船長なのであるが、久我はそんなことを知るよしもない。
(許せねぇっ。成坂にこんな、こんなこと……しやがって!)
 ぐったりとした亮に覆い被さると、深く口づける。
「ん……、む……っ、」
 まだ口中に残る亮の味を口移しに亮に与えながら、亮の片足を肩に担ぎ上げ、再び亮の幼いものを激しくこすり上げていく。
 この痕の主以上に、成坂亮を己のものにしたかった。
「ん、ぁ、だめ、も……、」
「んなこと言って、また硬くなってんぜ、成坂。俺ら男子コーコーセイが発情すんのは仕方ねーんだし、遠慮すんなよ」
 うわずった声でどうにかそう言うと、久我は挑発的にツンと尖った桜色の胸の飾りを口に含み、歯先で優しく噛む。
 同時にクチョクチョと音をたてていた亮の屹立を、乱暴に絞り上げていた。
「ひんっ……」
 亮は舌を突きだし、喘ぐように腰を浮かせると再び淡い飛沫を久我の手の中で放つ。
 濡れそぼった指先を、久我はゆっくりと亮のうす桃色の窄まりへ、潜り込ませていく。
「ぁ、ぁ、ォレ、コーコーセイ、だから……、仕方、ない……」
 熱に浮かされたように亮が呟いた。
 快楽にとろけた瞳にはもはや拒絶の色は微塵もない。
「成坂……、俺、おれも、気持ちよくなりてーんだけど、いいかな……、な。成坂……」
 久我の声も同じく熱に浮かされていた。
 キスを繰り返しながら、亮の後ろへ何度も指を突き入れる。
 その度に亮は身体を震わせ、必死に久我へしがみつく。
「ふぁっ、ぁっ、つめた……、よぉ……。ォレ、中、ぉゆび、つめた、のぉ……」
 GMDの副作用で幼い口調になる亮の様子に、久我の中でゾクゾクとさらに欲望が育っていく。
 己の中のイザが強く、強く、揺さぶられていた。
「っ、なりさか、入れるぞ? いいか? いいよな?」
 ジャージをおろし、未だかつて無いほど反り返った己のモノを取り出すと、久我は亮の秘所に熱いそれをあてがっていた。
「なりさか。っ、なりさか、俺の、おまえん中に……」
 場所を見極め、久我がぐっと力を込めようとしたその時。
「っ、ぁ……。ゆっくり、だ、よ。シドぉっ」
「・・・・・・。だれ?」
 久我の動きが止まる。
 しかし亮は久我の向こうに誰かを見たまま、甘えたようにしがみついてくる。
「シ? しない、のか?」
 潤んだ瞳で小首を傾げる亮の仕草は、殺人的に可愛い。
 見つめる久我の小鼻がぷっくり膨らんでいた。
 しかし――
(成坂が相手にしているのは……、俺、じゃ……ねぇ……のか?)
 亮が熱に浮かされたように、何度も「シド」という名を呼び始めていた。
 どうやら亮が見ているのは久我ではない、「シド」とかいう知らない誰かだ。
(べ……別人を装ってやっちまうのは……、男としてダメ……だろう……。ダメ……だぞ?俺)
 久我はがっくりとしゃがみこんでいた。
 元気なままのムスコが哀しい。
「シドぉ。も、ォレ、いらなぃ?」
 久我にさんざん煽られた亮は、自分から身体を離した久我を困惑したように見つめている。
 久我はそんな亮を抱き寄せると、再び亮の幼いそれを握り込み、優しく慰めてやる。
「ん……、ぁ……、ふぁっ、きもち、ぃの、ォレ……つめたぃの、好きぃ……」
 悪魔のように無邪気な誘惑が、久我の腕の中で腰を揺らし熱く息を吐く。
「気持ち、いいか? 成坂……」
 己も息を熱くしながら数分。
 久我は首筋に舌を這わせつつ、亮の速まる呼吸に合わせてその幼い屹立を強く扱き上げた。
「ぁぅんっ!」
 抱きしめた小さな身体が快感に震え、すっかり淡くなった白濁を放つと、そのままぐったりと力を失う。
「…………ふぅ……」
 震える熱い吐息を吐き、久我は亮の身体をゆっくり床へ寝かせていた。
 すでに亮は目を閉じ眠りに落ちているようだ。
 眺めているとまた歯止めが利かなくなりそうで、久我はガシガシと頭を掻き、亮の身体を抱え上げる。
「悪かったな……、成坂。俺さ……」
 ――こんな風にするつもりじゃなかったんだ。
 そう言いかけて口を閉じる。
 いや。最初から自分は亮をこういう目に合わせるつもりだったのだ。
 己の考えの最低さに反吐が出そうだった。

 それにしても――。
 シドとかいう男は、セラで亮に何かをした相手なのか。それとも本来の亮の恋人なのか――。

 気にはなったが、それを亮の口から問いただすことなど、今の久我には出来そうになかった。
 ――どちらにしてもいい答えじゃねぇしな。
 そう思って自嘲の笑みがこぼれる。
「なんだよ、どちらにしてもって」
 亮をベッドへ寝かし、汚れた下腹部をティッシュで拭くと、タオルケットを掛けてやる。
 涙の痕のある、疲れ切った亮の顔を眺めると、罪悪感ばかりが湧いてくる。
「おやすみ、成坂……」
 久我はそう言って丸い頬を撫でると、少し逡巡し、小さくその唇にキスを落としていた。
 そのままバスルームに直行する。
 唯一元気なムスコを寝かしつけなくては、久我自身、眠れそうになかった。