■ 5-63 ■






 ひんやりとした朝の空気と緩やかな震動により亮は瞼を震わせた。
 頬に当たるのは熱いほどの肌の感覚。耳元で鳴る低い鼓動が誰のものかすぐにわかり、もう一度目を閉じると耳を澄ます。
 亮が目を覚ましたことに気づいた相手は、抱えた手の親指ですわりと亮の肩を擦った。
「寝ていろ。風呂に入れてやる」
 耳元から骨伝導で届く声はいつも以上に低く深く、亮はその意味を解することなく音に酔いしれる。
 ずっと聴きたかった声がすぐそばで亮に向かい話しかけていた。
 歩みが止まりすぐに水音が聞こえ始める。
 そこで初めて亮は今シドに言われた言葉の意味がくるんと頭を巡り目を見開いた。
 見上げれば蛇口から吐き出される水流へ手をかざしたシドは不機嫌そうに眉根を寄せ舌打ちをしている。
「湯にする必要があるな」
 独りごち亮を抱えたまま立ち上がると、黒石造りの壁を何カ所か触っているようだ。

「シ、いい、オレ、一人で入る」

 焦ったようにその場で藻掻くが、抱えたシドは亮の頬に唇を寄せ、
「寝てろと言っている」
 容赦なくそう言い放つ。
 寝ていろと言われても──、と、亮は恨めしそうに左頬をケロイド状に爛れさせたままのシドの顔を見上げるしかない。
 ずっと前。亮が滝沢の手から救い出され事務所で手当てされていた時期に、何度かシドに風呂へ入れられた経験があったが、あの時の居たたまれなさといったら思い出すだけで悶絶するレベルだった。
 酷く落ち込んでもう死んでしまいたいと思ったあの時期、無表情で淡々と亮の人には言えない部分を大きな手のひらで擦り、長い指先で暴くその様は機械的ですらあり、亮のボロボロになった精神をさらに無情に苛んだものだ。
 日常の行為をされているだけなのにも関わらず、自分だけがドキドキして気持ちよくされるあの感覚は惨めとしか言い様がなかった。
 さきほどまで透き通っていた空気に濛々と湯気が満ち始め、天窓から差し込む光が帯となって白く世界を照らしている。
 ふわりと身体の浮く感覚がしたかと思うと、次の瞬間暖かな湯が亮の足を包み込んだ。
 身体を簡単に回転させられ、いつの間にか亮は背後からシドに抱きかかえられる形で、黒い陶製のバスタブへ身を投げ出していた。
 つま先の随分向こう側で太い湯の束が煙を巻きながら落ち、飛沫を上げている。
 大きなバスタブだなと思うが、亮の身体を挟み込んだシドの足は窮屈そうに曲げられ、その足の長めの指先は湯を直接受けていた。
 シドの手の指が長いのは嫌と言うほど知っていたが、足の指までこうだとはどういうことだと、すぐ前に投げ出された己の丸っこい足指を見て理不尽さに唇を尖らせる。
 此方へ突き出す銀の蛇口の向こう側には大きなアーチ状の窓が着いていて、向こう側には明け方の藤色に煙った空がどこまでも広がっている。
 だがそれも浴室に煙る蒸気によってあっという間に白く塗り込められ、柔らかにぼんやり輝く色ガラスへと変わっていく。
 ここはどこなんだろう──。あまりに現実離れした状況に、亮の頭に再びこの疑問が浮かんだ。
 目覚めて最初に浮かんだこの疑問は、シドの看病と彼が目覚めてからの暴挙によりこの四日間置き去りにされていた問題だ。

「なぁ、シド、ここってどこなんだ?」

 真上に顔を上げ、自分を抱きかかえたシドの顔を見る。
 見下ろすシドの頬は亮の記憶にあるよりも痩せているようだ。

「新しい家だ。──俺とおまえの、な」

 解答になっているのかいないのかわからない答えを返される。
 新しい家、という単語でしばらくはここに落ち着くつもりなんだと言うことはわかる。だが具体的にはどこの国のどんな場所か──いやそれ以前にここが現実の地球なのかセラなのか、はたまた樹根核のような特殊なエリアなのか、肝心なことはなにもわからない。
 数瞬考えを巡らせそう行き着いた亮は不平を言うべく再び顔を上へ向ける。

「だから家ってどこに建ってる家なんだって聞いて」

 漏れ出した不満は途中で止められた。
 シドが亮の口を口で塞いでしまったからだ。
「っ!!!!????」
 思わぬ攻撃に目を白黒させ咄嗟に力を込めかけた亮の顎を、一瞬の筋肉の動きで察したシドの右手が背後からしっかと固定して動きを封じる。
 溜まり始めた湯の雫が巻き上げられ亮の両手が跳ねるが、それも回された太い左腕に止められ、それ以上身動き一つ取ることが出来ない。
「ぅ……し……、んん…………」
 抗議しようと声を上げかけたせいで開いた唇からさらに深く冷たい舌が入り込む。
 くちゅりと濡れた音をたて、大きな舌が勝手知ったる様子で亮の下顎を味わい、迎撃しようとした小さな舌を絡め取ってしまえば、不意のことに驚き暴れようとしていた力があっという間に抜けていく。
 煙草の味がしとどに流し込まれ、己の唾液と共に溢れて亮の顎とシドの右手を艶やかに濡らす。
「……っ、ん…………、…………ぅ」
 足下で上がる蛇口からの健全な水音を縫うように、くちゅりくちゅりと淫靡な水音が流れ続ける。
 呼吸すら奪われ苦しさで喘いだ亮の様にようやくシドは一度唇を解放し、息継ぎを許していた。
 大きな黒瞳がとろんと蕩けシドの顔を映し出し、はふはふと薄い胸が上下する。
 そんな亮の首筋に舌を這わせ根元に着けられた赤黒い内出血を辿りながら、己のつけた歯形に音を立て口づける。
 亮の左鎖骨上部に繰り返しつけられたその跡にはシドの執拗なまでの執着が見て取れるようだった。

「どこに建っているのかは知ってもあまり意味がない。──強いて言うなら深層セラの一つの中だということだけだ」

 意味がないってどういうことだろう──と、ぼんやり浮かんだ亮の疑問は、すぐに悪戯を始めたシドの指先で霧散させられてしまう。
 左腕は亮の上半身を拘束したまま右手が亮の足の間に忍び入り、昨夜散々散らした亮の花冠の縁を撫でた。
 長時間受け入れたせいで濃桃に腫れたそこはわずかに熱を持ち、つぷりと潜り込んでくる冷えた指先が心地よく、亮の意志とは無関係に招き入れるかの如く蠢いてしまう。
 その様子に口の端をわずかに上げ、シドは中指に続いて人差し指まで潜り込ませる。

「ゃ、も、やだ……」
「やじゃない。中を洗うだけだ。じっとしていろ」

 言いながら太く長いシドの指先が器用に亮の中を蠢き、中を広げ湯を入れるように何度も挿出を繰り返す。
 亮の内側にたっぷりと注がれていたシドの精が掻き出されていく度、白い花が湯の中に広がり、亮の細い腰がビクンビクンと跳ね上がる。
 疲労と恥ずかしさで萎れていた幼い花芯が再び首をもたげ、水面からちゃぷちゃぷと何度も顔を覗かせてしまう。
 それに気づいた亮はあまりの恥ずかしさに泣きそうに顔を歪め、なんとかその動きをやめようと力を入れてみるが、シドの指先は掻き出す動きに合わせて亮の腹側にある感じるしこりをくりくりと刺激し、しまいには二本の指で挟み込み強くぐりんとつねり上げていた。
 亮の身体が激しく波打ち、水面から突き出された腰の上で完全に天を仰いだ幼い花芯がぷるんと震える。
 抵抗空しく枯れ果てた喉をさらに引き絞り「ひゃぃん」などという犬みたいな声が出てしまったにも関わらず、亮の可愛らしいそこからは何も吹き出すことはなく、パクパクと喘ぐように先端の小穴が開閉を繰り返すのみだ。
 埋められたシドの指を亮の内壁が強請るように締め付けてしまい、その節くれた関節の形までもわかるようで、亮は無意識に腰をゆらしながらも羞恥に全身を薔薇色に染める。

「こら、奥に入れようとするんじゃない。出すんだぞ、亮」

 ずり落ちがちだった上半身を抱え直され耳元で囁かれると、シドの胸板に押しつけられた小翼が本物の鳥のように震えた。
 わざとエロい動きして、おまえがそうさせないんじゃんか! ──と、言ってやりたかったが、動き続ける指先は止まることをせず、中で捻りを加えて突き入れ続けられる。
 一度達したはずなのに緩い快感が小波となって何度も亮の中心を痙攣させ何も喋れない。
 代わりに意味のない喘ぎが「ぁ」だとか「ぉ」だとか音になって口を突き、だらしなく舌を突き出して腰をゆるゆると動かし続けた。
 こんな風にされると再び亮の奥に火が灯り、もっと奥へシドを感じたくてたまらなくなる。
 精を吐かないで達する快感を教え込まれた亮の身体は何度逝っても限界がない。気を失うまで延々とその感覚が襲いかかり肉体の芯を痙攣させ続ける。
 セブンス時代、スティールやヴァイオレットといった“亮の精液を摂取するよりも亮の痴態を見ることに熱心な”数多くのカラークラウンたちに同じような快楽を強制的に与えられてきた。その度に亮は強い快楽の後に訪れる死にたいほどの嫌悪感に心の奥をぐしゃぐしゃに食い破られ、吐いて吐いて何も感じなくなるまで嘔吐き続けた。
 だが不思議と今、亮はその瞬間を全く思い出さなかった。
 シドの声が聞こえ、シドの体温を感じ、シドの香りに包まれて与えられる快楽は、同じようで全く違った何かなのだ。
 理不尽や意地悪に憤ったり仕返ししてやろうと目論んだり、決してプラスの感情だけが亮を支配しているわけではない。
 嬉しいだとか幸せだとか言葉に出すのも違っている気がする。
 ただ当たり前にここにあって、普通の亮として亮はここに存在しているのだ。

「まだ奥に残っているな」

 ぐいっと指で届く限界まで突き入れられた亮の身体が水音を鳴らしてばしゃんと跳ねた。
 今一度大きな快絶の波に身を震わせた亮は数分間喘ぎ続け、それでも痙攣が治まると同時に、力ない手足を踏ん張らせてぐるんと身体を回転させる。
 シドと向かい合う形で膝の上にまたがった亮は涙目でシドを睨み付け、

「わざ、と、してる、だろ。……っ、わかってんだぞ、エロシドっ!」

 ようやく言いたい言葉を眼前の師匠へ叩き付けていた。
 寝そべるに近い形のシドにまたがるこの体勢だと珍しく亮はシドを見下ろすかたちになる。
 威嚇するように小翼までもが広げられていることに本人は気づいていない。
 それを眺め上げるシドの眉は高く持ち上げられ、余裕の微笑を浮かべているようだ。
 シドのくせに相変わらずかっこいい顔してるな、と、理不尽な怒りが亮に満ちる。
 いつもは白い、陶器のような肌のあちこちは未だケロイド状に崩れていたが、それすらシドを彩る装飾の一部に思えてくる。

「わざとしてたらなんだ。それで気持ち良くでもなったのか?」
「うっせ! ぜんっぜん気持ち良くなんかなってねぇし!」

 バカ、エロ、バカ、コロス、とムードも何もない罵詈雑言を吐きながら、亮はシドの唇を奪った。
 小さな舌を潜り込ませ綺麗に並んだシドの歯列を撫で、更に奥の上口蓋の凹凸を擦り上げる。
 ちゅむ、ちゅむと可愛らしい音を立てながら夢中になってシドの唇を貪る亮を好きにさせながら、シドは両手で亮の小振りな尻を掴み割り広げ身体を持ち上げると、そそり立つ剛直の上に落としていく。
 昨日から散々慣らされたそこは苦もなくシドを包み込み、亮の体重に任せるまま飲み込んでいく。

「??? ……っ、ぁ、?」

 しかしそれでも受け入れるには厳しいサイズを持つシドの屹立に、口づけに酔いしれていた亮の動きが止まった。
 今は自分の攻撃ターンのはずなのになんで? とでも言いたげに目を丸めシドを見下ろす。
 奥まで飲み込むのを避けようと足を踏ん張りかけるが、弱り切った体力によりずるりとその膝はバスタブの底を滑っていた。

 ずるん──

 と奥までシドがのめり込み最奥まで達したところで、ぶちゅん──と潰れたような音が亮の下腹の奥で鳴っていた。

「っぉ……、???」

 目を見開いたまま亮の背が伸びきり、キスを仕掛けていた舌が行き場を失い宙を泳ぐ。
 亮が状況を理解する前にシドは動きを再開させていた。
 亮の細い腰を両手で掴み上げると持ち上げ、腰の突き上げに合わせるように引き下げる。
 水面は嵐の海かと言いたくなるほどささくれ立ち、宙に吹き上がり床を派手に塗らしていく。

「それなら、奥まで掻き出してもっ、平気だな?」

 動きに合わせて言葉を切りながらシドは挿出を繰り返し始めた。
 亮の薄い腹がその動きに合わせてぽこりぽこりと影を造る。
「んっ、ぁ、ぁ、ひ、ぁ、あ、あ、っ、ひんっ、っ、っあ、ぉん、」
 亮の口から繰り返される意味のない音に頬を弛め、目の前で踊るつんと尖りを見せた胸の飾りにシドはかぶりつく。
 右側を強くじゅっと吸い上げれば、亮はシドの名を呼びながら自ら腰を揺すり始めた。
 強く吸い上げられたそこは形を変え、少年らしい小振りな乳輪ごとシドの分厚い舌先にしごかれるように絡め取られる。
 触れられる前からすっかり芯の通ったその尖りを歯先で緩く噛み締められ、先端を尖った舌先でこりこりと転がされると、亮の幼い屹立は触れられてすらいないのに、まるでそこを愛撫されているかの如くびくびくと脈打った。

「し、らめ、ォレ、らめそこ、っ、シ……っ、ひん、」

 ちゅぴっと高い音を立て解放された右胸の先は、明らかに左胸の乳首より卑猥に腫れ上がり、アンバランスに赤く色づいてぷるんと揺れていた。

「そこ?」

 どこのことだ? と言わんばかりに腫れた右乳首をぺろりと一舐めされ、亮は快感を逃そうとぶんぶん首を振る。
 しっとり濡れた亮の髪束から雫が散り飛ぶ。

「そこ、っ、ォレの、ぉぱい、もう、たべ、なぃでぇっ」

 しらふで聞けば恥ずかしくて逃げ出しそうな言葉を今の亮は繰り返しシドに訴える。

「なんで、駄目、なんだ?」
「らて、……、きもちょく、なちゃう、からぁっ」
「嘘を、つくな。っ、全然、気持ち良く、ないんじゃ、っ、なかったのか?」
「うそっじゃないっ、っ、ぁぅっ、さっきのが、ぅそっ、っ、きもちぃ、……、きもちぃっ……、ひぁ、……っ、いま、は、ほんと、なのぉっ、」

 何を言っているのか自分自身でもわかっていないであろうその様子に見上げたシドは目を細め、亮の訴えを聞くことなく再び右乳首を吸い上げていた。
 それと同時に亮の腰を強く突き上げる。

「ひんっ!!!!!!」

 亮の小翼が目一杯広げられた。
 びくんびくんと小さな身体全身が波打つ。
 シドは亮の身体を支えたまま足先に手を伸ばし湯を止めると、今度こそ容赦なく挿出を繰り返し始めた。
 もう抑えることすら出来ない亮の嬌声に混じり、シドの食いしばった歯の間から愉絶をかみ殺す呻きが漏れる。
 獣の如き呻きの間には亮の名が幾度も織り込まれ、揺すられながらもシドの腕にしがみつく亮の姿を片時も逃さず見つめ続ける。
「っ、……、亮……っ、……っ、とおる…………っ、」
 シドには己の上で跳ね続けるしなやかな肢体が天窓から降り注ぐ白い光に滲んで見えた。
「っ、しど、……、しどっ、っ、きもちぃ、ょ。……っ、シドぉっ」
 亮は必死に腕を伸ばしシドを求める。
 それに応えるように抱き寄せると深く唇を合わせ、シドは亮の奥に熱い迸りを二度叩き付け、その強烈な悦楽に恍惚と腰を揺すった。