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 木製のベンチがぎしりと軋みを上げ亮の身体が向かい合うように抱え上げられていた。
 見下ろすシドの額に桜が一ひら舞い落ち、白い氷片に変じて風に散りゆく。
 ひらりひらりと舞う桜の雨が次々と雪白に輝いて、亮はうっとりとため息を吐いた。
 
 セブンスで。樹根核で。そしてあの日も。

 ずっとずっと長い間待ち続けていたシドが、今はこうして共にある。
 あの日シドは迎えに来てくれた。
 もうずっと一緒にいられる。
 シドの薄い唇が開かれたのが見えると、亮は思わず小さな舌を伸ばしねだるように蠢かせた。
 その様をしばし目を細め眺めていたシドは、それに応えるように太く冷たい舌を伸ばして先端を触れ合わせる。
 深く唇を合わせようとする亮の身体をわざとその膂力で突き放し、欲情でうねうねと踊る少年の舌を鑑賞するように愛で、春光まぶしい川縁にぺちぺちと舌のぶつかり合う音を響かせる。

「っぁは……、し、ど……、ゃ、……、ちゅ……ほし……」

 シドの秀麗な相貌から伸ばされた生々しい器官に己の短く幼い舌が弄ばれる映像は淫靡で、亮は腰を揺すり、硬くした小さな屹立をシドのシャツへとこすりつけてしまう。
 もう何も考えず。思い出さず。外の世界で起こったことなど無かったことにして――、

「どこでキスしてる、おまえは」

 喉の奥で密やかに笑うとシドは亮の身体を軽々とひっくり返しベンチに押しつける。
 両足を抱え上げられシャツがめくれ、あられもない姿で亮は身動きすら取れなくなっていた。
 逆光で陰ったシドの向こうで大きな桜の枝が揺れている。
 風の音と馬のいななきだけが聞こえる世界で、黒い影がいくつも二人の前を通り過ぎていく。
 そこで初めてここが外であり、人の居る往来だということに思い至り、亮は焦ったようにもがき始めた。

「ゃ、し、ここ、外だ。人がいる――」
「そうだな。今日は日曜日かもしれない」

 影たちに見られてしまうな――。そう言ってシドは亮の後腔へ、先ほどさんざん亮を煽った長い舌をこじ入れて行く。

「やだ、……しど、っ、そんなとこ、やめろばかっ…………っ、ふぁ……」

 白く丸い尻たぶが昼光に照らされ浮かぶように蠢いていた。
 逃れようと手足をばたつかせる抵抗は、亮の痴態をますます物欲しそうに見せるだけでしかない。
 シドの柔らかな舌が更に奥まで突き入れられると、亮のゆるく起ち上がった白いつぼみは目に見えてびくびくとふくれあがり、先端に桃色の芯を覗かせてしまう。
 中心の小穴からとろりと透明な粘液が漏れ出し、亮の小さなへそへぽとりぽとりと零れ落ちて恥ずかしい程の水たまりを作っていく。
 ジュジュッと下品な音を立て吸い上げられて、亮の腰が我知らずかくかくと動いてしまうと、シドは愛おしそうに硬くせり上がった亮の二つの珠を舌先で弄んだ。

「おまえのして欲しいこと全部してやる」
「オレ、こんなのちがぅ、ここじゃなくてぇ……っ」

 時折口の中へ吸い込まれ、たっぷりと舌で絡め取られ、そこから解放されれば風に吹かれてヒンヤリと体温を奪われるせいでここが屋外だと否が応でも亮に知らしめられる。
 黒影のいくつかが亮のそばでのぞき込むように立ち止まっていた。
 背格好から成人男性だと思われる影と、その子供らしき小さな影。

「違わない。俺のこの指も舌も唇も。全部がおまえのもので、……っ、全部がおまえのして欲しいことをわかっている……」
「ぁ、ぁ、ォレ、ちがゎなく、なぃ、ぃぁっ、あっ、」
「これを使って気持ちよくなる姿をこいつらにも見せてやればいい」
「ひ、ゃぁ、……っ、ぁ、ぁ、みない、で、やら……ォレ、みんなぁ……っ、」

 言いながらも亮の全身に言いしれぬ快感の粒がぞくぞくと湧き出していた。
 めくれたシャツの下から尖りきった乳首がちらちら晒され、シャツの裾に触れる度もどかしいうずきが亮を襲う。

「シド。しどぉっ……、」
「ん?」

 亮が何を言いたいのかわかっているはずなのにシドは動かない。
 こういうときシドが何を要求しているのか。どうすればこの切なさをどうにかしてもらえるのか。亮はすでにわかっている。

「オレも、やる。シドに、やるから、全部」
「……っは」

 シドが熱い息を吐き、眼光に情欲を溜めて亮を眺め降ろす。

「全部? 亮――、俺の出来の良い弟子は、師にまず何をくれるんだ?」
「っ、ココ。オレのココ、あげる、から、食べて、いい、からっ」

 胸を突き出し、亮は親指で起ち上がった乳頭を自分からコリコリと転がしてみせる。

「ここ?」」

 指の上に手を重ねられ、亮の動きに合わせるように柔く一緒にこね回される。

「ひんっ! ……うん、うん。いっぱい。両方。シドに、あげるから」

 シドの手が離された後も親指でのいたずらがやめられなくなった亮は、両方の乳首を指で転がしながらゆるゆると腰を突き出している。
 もう何も考えられない。
 早く、早くとせかすように指を動かし、時折ぎゅっと強くつまみ上げてしまう。
 シドの顔が降ってきて、指ごと冷えた口の中へ吸い込まれる。
 右側はジュッという音を立て痛いほど強く吸い立てられ、左側は亮の指先でつままれた先端をかりかりと爪先で引っかかれた。

「んぁっ!」

 その上歯を立てられ、咀嚼するように何度も何度も歯先で小さく刺激される。
 少し伸びた燃える朱の髪を両手にからませ、亮はシドの頭を抱え込んでその光景を見下ろした。

「ォレの、おぱい、シドに、食べられて、る……。っ、しど、ぉぃし? ォレの」
「っ……、は、…………、こんなに硬くては……っ、食べきるのに随分時間が……かかる」
「そんなに、硬く、ねぇ、もんっ。ふつう、だ、ばかっ、…………ぃぁ……、あん、っ、コリコリ、きもちぃぃよぉ、っ、ぁ、ん、ん、ん、しどぉ……」

 シドに与えられる刺激全てが亮の脳髄を痺れさせ、ドーパミン過剰による興奮と、相反する溺れるほどのセロトニンによる幸福感で亮の表情は蕩けきっていた。
 シドは熱く息を吐くと冷たい舌先で胸の先から鎖骨、首筋、そして顎先まで味わうように舐め上げていく。
 亮の甘い肌に微かな汗の味が混ざり、極上の味付けがシドの動物的本能を揺さぶり起こす。
 甘い溜息の影に隠れ猛獣のような唸りが喉の奥から抑えきれず漏れ出していた。

「ふ……っ、……次は、どこだ。……、っ、どこを食われたい」
「次、は、ここ、の、奥…………、あげる。から」

 亮は自ら片足を大きく上げ、右手で尻たぶを掴んで後腔を見せつける。桃色に熟れたそこは先走りに濡れそぼり、ぱくぱくとはしたなくシドを誘惑する。
 何度もシドに食べられたそこは、もういつでもシドを受け入れられる器官に変化してしまっているようだった。

「もう、ここ……か。何年経ってもこらえ性がない。少しは成長しないか」
「っ、成長、してるっ。もう我慢した。五分は耐えたもん!」
「……耐えた……な」

 呆れたような一言を与え、それでいて内心ほくそ笑むようにシドは餌をねだるひな鳥のようなそこへすわりと指先を滑らせた。

「っ、ん、冷て」
「おまえが熱いんだ」
「……、そ、かも。……だって、シドが、ェロイから……、しょうがねぇもん……っ」
「…………」

 鼻先で笑うと、シドは頬を膨らませ唇を尖らせた不細工な弟子にキスをする。
  最初こそ恥ずかしがって拒絶するのは昔と変わらないが、その後快楽の淵に落ちた後、亮は素直に奔放にシドを求めるようになっていた。そんなときはめまいがしそうな程の色香が少年の白い身体から立ち上っているのだが、本人にその自覚は未だない。
 亮の花開くようなこの変化はしばらく共に暮らしていた快楽主義者の兎のせいなのか、それとも飽くことなく亮の身体を己で埋めた独裁者の氷神のせいなのか。
 シドは今度は何も言わず前をくつろげると、ゆっくりとそそり立つ赤黒い巨根を亮の中へと埋めていく。
 初めて亮へ入れたときと同じ狭さでそこはシドを締め付け、だが、何度も撫でた柔さで淫猥にシドを包み込む。
 これではどちらが食べているのかわからないと、亮は桃色に霞む頭の片隅でぼんやりと思い、シドを食べている自分を感じて小さな胸から熱い息を吐き出した。
 しばらく進んだ腹側にあるしこりをゆるゆると擦り上げられるだけで、亮はとろりと涎を垂らしながらシドに合わせるように腰を突き出してしまう。
 何度も何度も突き上げられ、自分とは思えない嬌声を無理矢理腹底から押し出される。
 擦り上げる度内のシドは体積を増し、極太の氷柱は亮の内蔵ごと好いところを揺さぶった。

「っ、ひう、ぁ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぃぁ、……、っ、んんんっ、」

 こんな自分を廻りの人間に見られているという感覚が時折亮を襲い、耐えきれず両腕で顔を隠した。
 だがその腕を強引に開かれ頭の上でまとめ上げられる。

「やら、しろ……」
「顔、隠すな。全部よこせ」

 真剣な顔で囁くように言われた次の瞬間。

 ――ボチュン!

 と腹の底からつぶれたような音がした。

「――――――――ぉぐ!」

 亮の眼が見開かれ、男の子一番奥の扉を貫かれた衝撃にがくんと身体がはねた。
 次の瞬間。

 ――プシュッ!!

 透明な液体が亮の先端から吹き上がり、亮は舌をつきだして声もなくあえいだ。
 同時にシドの薄い唇がわずかに開かれ、堪えるようなため息が吐き出される。

「亮――。俺を、全部やる。だからもう俺以外全て忘れろ。世界はここ――だけだ。俺とおまえだけいればそれで完全なんだ」
「……っ、わ、しゅれ、りゅ……、ォレと、シド、らけ……」
「亮。……亮。……好きだ。俺だけを、見ろ」

 亮の小さな白尻は上から筋肉の塊に押しつぶされ、骨盤すら平らにされるかのようにプレスされてしまっている。
 シドの手が亮の薄い腹を撫でていた。そこには淡いシドの影が内側からゴツリと押し上げているのがわかる。

「し……」

 言いかけた亮の唇をむさぼると、シドは腰を大きく引き、再び最奥へ突き入れた。
 だが今度は亮の叫びはシドに飲み込まれ、風に乗ることはない。
 木製のベンチが壊れそうに軋みを上げ始めていた。

「ぉ、ぉ、ぉん、ぁ、ぁっ、とぉる、の、おくのへや、しろがはいって、くる、の、なんろも、しろが、ごん、ゴン、、って」
「……っ、ふ、……、ふ……、亮……っ、、…………っ!」
「ぁ、ぉ、ぉ、っ、ひぐっ、いぐ、……、きち、ぃぃよぉっ! いちゃう、……、し、しろっ、ォレ、おにゃか、こわれて、いくっ…………っ、」

 何度も何度も亮のつぼみから透明な液体が吹き上がるが、精液は一滴も零れでない。
 代わりに永遠に続く絶頂が亮を下ろそうとしてくれない。
 外だというのに。
 昼間だというのに。
 人の往来のあるベンチの上で、亮はシドに何度も腹の奥の普通じゃないところまで貫かれて、ぷるんと起ち上がった乳首も、何度も潮を噴き上げる幼い陰茎も晒したまま揺すられ続ける。

「も、むり、っ、いってる、ぉれ、ぉん、……っ、いてる、からっ……、いぎっ……ぉっ、ぁ、ひん!」
「――――っ!」

 熱くて冷たいほとばしりが、何度も何度も奥の部屋へたたきつけられていた。
 それでも堅さを失わないそれは、飽くことなく再び亮の部屋を侵し続ける。
 上からプレスされたままシドの精液がどくどくと流し込まれ、薄い亮の腹は重さを持つほどだ。
 次に背後から抱え上げられ、影達に見せつけるように突き上げられる。
 シャツはボタンが全て飛び、亮の白い裸体全てが晒されていると言っても過言ではなかった。
 首筋にかみつかれ、両方の胸の飾りを引っ張り上げられながらゴチュリと最奥を突かれると、亮はようやく白い液体を吹き出していた。
 前で立ち止まってこちらを見ている影へ向かい何度も放たれた亮のミルクは、ぱたぱたと軽い音でアスファルトをぬらす。
 同時に再びシドの精液が亮の中に注がれ、亮はガクガクと震えながら再び絶頂を促された。
 透明な雫が開いた亮の唇から一筋、垂れ落ちる。
 背後から冷たく鋼のように硬い身体に包み込まれ、耳元で何度も「亮」と名を呼ばれる。
 甘く低い声と呻きと、そして絶頂を迎えているのに再び奥をえぐり始める濡れた音に、亮もすがるように「し」という音と、「すき」という言葉を唇から零した。

 全部、なかったことにしてしまえばいいんだと、そう思った。
 シドと一緒にいればそれで亮の世界は完結するのだ。
 シドが好きで、好きで、好きで、亮の全てがシドのものだった。